約 1,921,972 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8510.html
前ページ次ページアウターゾーンZERO その頃、トリステイン魔法学院は大騒ぎになっていた。 謹慎中のルイズがいなくなったことはもちろんだが、学院の一室に安置されていたはずの才人の死体が消えてなくなっていたのだ。 ルイズが殺人で捕らえられることを恐れ、証拠隠滅のために死体を持ち去ったのか? その路線が濃厚だ。 直ちに捜索隊が組まれ、ルイズの行方を追うことになった。 もし見つかれば、重い処分は免れないだろう。 話はトリステイン総合学院は戻る。 ルイズは学院長室に通された。 「ようこそ、我が学院へ。私が当学院長のエーゲリッヒ・オティアスです」 オティアスと名乗った学院長は、にこやかな笑みを浮かべていた。 しかし、どうも面に貼り付いたような笑顔が気になる。 魔法学院のオールド・オスマン学院長よりやや若く見える。頭は禿げ上がり、コルベールといい勝負だ。 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。よろしくお願いします」 「まあ、そう堅くならずに。私が、この学院の案内をさせていただきます」 オティアス学院長が自ら案内役となり、学院内を見学することとなった。 「まず、この学院は徹底した学力による実力主義を取っています。クラス分けは学力によって決まり、クラスによって生徒の待遇が違います」 学院長の説明を、ルイズは神妙な面持ちで聞く。 「テストを毎日行い、成績の悪い者は下のクラスに落ちます。ただし良い者は上のクラスに上がれます。毎日、生徒の入れ替えがあります」 「あの……質問よろしいですか?」 「はい」 「毎日生徒が変わるのでは、担任の先生は混乱しませんか?」 「大丈夫です。生徒は番号に寄って管理されています。生徒のデータは、番号とテストの成績だけですので、混乱はありません」 番号で管理……まさしく牢獄だ。 「それと、クラスによって待遇の違いがあるとおっしゃいましたが、どんなものですか?」 「はい。食事の時間、上のクラスほど食べられる食事の種類が増えます。最下位のクラスに至っては、パンと水くらいしかありません。さらに、椅子に座ることさえ許されず、床で食事をします」 「そ、そんな……」 まさしく、貴族と平民の違いだ。いや、王族と奴隷と言っていい。 「いい食事をしたければ、上に上がるしかないのです。それが実力主義です。ははは」 そんな理不尽な……と言いかけて、飲み込んだ。 もしかしたら、才人に対しても、おそらく同じことをしたのではなかったか。 理不尽を、何の疑問も持たずに才人にしようとしていたのか。 「ご覧下さい。ここが最上位のクラスの教室です」 教室はまるで、王宮の一室のようにきらびやかだった。 椅子、机、その他備品に至るまで、ピカピカに磨き上げられている。 生徒たちは張りつめた空気の中、教師の説明を聞き、ノートを取っていた。 その後、他のクラスの授業を見て回った。 魔法学院と変わらない作りの教室。これは成績中位のクラス。 下位のクラスに行くにつれ、教室のグレードが下がっていく。 「こ、これは……」 最下位のクラスを見て、ルイズは唖然となった。 机も椅子もボロボロ、生徒たちはやせ細り、まさしく囚人のようだ。 「ここに落ちたら、なかなか上がれません。そうならないために、誰もが必死なのです」 ただよってきた異臭がルイズの鼻をつく。糞尿の臭いだ。 「あ、あの……トイレは……」 「行かせませんよ」 「……!?」 「トイレには行かせませんが、衛生に関わりますので、教室の後ろの容器にさせます」 何ということを。 それは、人としての尊厳を奪うということだ。 「そ、そんなことをしたら、生徒の親が黙っていないのでは……」 生徒たちの親は、おそらく貴族のはず。平民ならともかく、貴族の子供にこんなやり方が許されるはずがない。 「大丈夫です。ここはいわゆる治外法権となっていまして、国の法律の制約を受けないのです」 「し、しかし、生徒たちは貴族なんでしょう? もし親が聞いたら……王家に報告したら……」 「ここは存在が極秘の上、箝口令が生徒や父兄に行き届いておりますので、情報漏れはありません」 どうにも信じられない。 「貴族も平民も関係なく、人生は戦いです。戦いに勝ち抜いていくためには、これが最良の教育なのです」 ルイズは唖然として声も出ない。 その時、鐘が鳴った。 「あ、休み時間ですね。このクラスにはありませんが」 「休み時間がないんですか?」 「そうです。落ちこぼれた者に、休みは必要ありません。食事と睡眠以外は休みはなしです。ではそろそろ行きましょう」 学院長に連れられ、ルイズは教室を後にした。 「ん? 君、今廊下を走りましたね」 学院長は、小走りしていた男子生徒を呼び止めた。 「あ、あのトイレに……」 「いけませんねえ、規則は守らなければ」 学院長は、廊下の脇にあった鉄棒を手に取った。 「……えいっ!!」 「ぎゃっ!!」 頭を鉄棒で殴られ、男子生徒は倒れた。頭から血が流れている。 「な、何を……!!」 ルイズは息をのんだ。 「あー、これは教育的指導です。ははは」 学院長は笑いながら答える。 「こ、これ、死んで……」 「不幸な事故というものです。心配しなくてもそれは美化委員が片付けますから。ははは」 倒れた生徒は動かない。明らかに死んでいる。 しばらくして、美化委員らしき生徒たちが、無表情のまま死体を運んでいった。 別の生徒たちが、黙々と廊下の掃除をしている。 もうルイズは言葉がなかった。 ルイズは学院長室に戻った。 「以上が、当学院の概要です。さて……」 学院長は一枚の書類を差し出す。 「あなたはすでに、特待生として、推薦入学の許可が降りています。こちらの書類にサインしてもらえれば、あなたはここの生徒になれますが……もちろん無理にとは言いません」 サインをすれば、入学できる。 でも、どうする? ここは明らかに異常だ。 貴族の子供をまるで囚人のように扱い、教育と言って殺すことも許される。 では、魔法学院に戻るか? しかし戻った所で、人殺しとなじられる毎日が待っているだろう。 そして、また『ゼロのルイズ』と嘲られる。 でもここなら、特待生として入学できる。もうゼロと呼ばれることはない。 学業の成績なら自信がある。成績が良ければ、少なくとも、まともな暮らしは保証されるのだ。 ルイズは決心した。 「わ……わかりました。私、ここの生徒になります! 正直言ってまだ……狐につままれたような気分ですが……気に入りました!」 「そうですか……わかりました。ではサインをどうぞ」 ルイズは渡されたペンで、書類にサインをした。 「おめでとう! 今日からあなたは当学院の生徒です」 「お世話になります!」 ルイズは頭を深々と下げた。 「……早速ですが……あなたは当学院の規則に違反しています」 「え?」 「ピンク色の髪、マントの長さ、杖の長さ、吊り目、胸の大きさ……その他諸々で……全部合わせた処罰は……」 学院長は一旦言葉を切る。 「『終身独房にて学習』、ですね。ははは」 「ご、ご冗談を……」 「冗談なんかではありませんよ。……入りなさい」 その時、学院長室のドアが開いた。 続いて、大柄な黒服の男が二人は言ってきた。 「な、何を……!!」 驚く間もなく、ルイズは両脇を掴まれてしまった。 「は、離しなさい!! こんなことをしてただで済むと思ってるの!? 私を誰だと……」 「だから言ったでしょう、ここは貴族も平民も関係ないのです」 ルイズは必死に暴れたが、男たちの力にはかなわない。 「は、離して!!」 抵抗空しく、地下室の独房に引きずられるように連れて行かれた。 「きゃっ!」 独房に放り込まれたルイズは、床に倒れた。 「や、やめて!!」 続いて鎖で手足、首までも繋がれる。 「な、なぜ!? なぜこんなことをするの!?」 「なぜだか教えてあげましょうか」 ついてきた学院長が、顔面に手をかける。 「バカ貴族のあなたには……」 学院長の顔面がはずれた。仮面を付けていたのだ。 「言っても無駄だからですよ」 現れた素顔は、ルイズがはずみで殺したはずの才人の顔だった。 「サイト!?」 学院長……才人が出て行った後、重い扉が音を立てて閉まった。 それから、連日……。 「なんだなんだ! ほとんど間違えているじゃないか!!」 「す、すみません……お腹がすいてて……」 「何度謝ったら気が済むんだ! 犬でももっとマシな物覚えだぞ!」 「ぐっ……」 「何だ、その目は! 反抗した罰として、鞭打ち30発!!」 「ぎゃああああああっ!! 痛い!! 痛い!! 許して下さいー!!」 その後……行方不明になったルイズは、結局見つかることはありませんでした。 使い魔を死なせたことを苦に逃亡したものと処理されましたが……皆さんはおわかりのはずです。 抜け出すチャンスがありながら、彼女はアウターゾーンから出られなくなってしまったことを……。 場面は日本へと移ります。 「あいててて……」 もうろうとする意識は、頭痛で次第にハッキリしてきた。 「……おっ、気がついたか。大丈夫か?」 誰かが呼ぶ声がする。 「! こ、ここはどこだ!?」 才人は弾かれるように起き上がる。すると、見慣れた景色が目に飛び込んできた。 周囲には人だかりができている。 「え? 秋葉原だけど……」 野次馬の一人が答えた。 「秋葉原? あの時俺は、召喚されて……」 あの時ルイズに暴行を受けて死んだはず……。 「君、悪い夢でも見てたのか? うなされてたよ」 「夢? じゃあ、あれは全部……夢だったのか? ……こ、これは……!」 腕には生々しい鞭の跡が残っている。ルイズにやられたものだ。それ以外は考えられない。 「一体……何があったんだ? 何がどうなったんだ?」 彼は死んではおらず、仮死状態になっていただけでした。 どうやら、それで彼はアウターゾーンから抜け出せたようですね。 さて、皆さんもハルケギニアへおいでの際は、トリステイン総合学院へ入学しませんか? ただし、厳しい教育方針ですのでそのつもりで! 前ページ次ページアウターゾーンZERO
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2937.html
前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ 始めに見たのは暗闇だった。 ──もう、夜? と思ったが、まぶたを閉じているだけだとすぐに気づいた。 目をつぶったまま寝る前のことを思い出す。 品評会で暴走したジュエルシードの力を受けたゴーレムが出てきて、それからそのゴーレムとキュルケやタバサと協力して闘って、それからスターライトブレイカーを使って…… 「あっ!」 思い出して目を開ける。 自分のベッドの天蓋が、それから窓の外には青い空が見えた。 「ジュエルシード!」 まだ、それが残っていたはず。 スターライトブレイカーでジュエルシードを掴んだところまでは覚えているが、その後どうなったか思い出せない。 ルイズは体を起こそうとした。 でも体が動かない。 ふわふわのベッドに手と足が沈むが、どうしても体が持ち上がらない。 おまけに体のあちこちが痛む。 動こうとするたびに関節がギシギシ痛んで、体が動かない。 不安で痛みが増して、痛みが不安を増していた。 「ルイズ。起きたの?」 首を少し傾ける。 ユーノがベッド脇の机の上にいつものようにフェレットの姿で立っていた。 「ユーノ。ジュエルシードは?」 「ちゃんと封印できてるよ」 「そう。よかった」 最後に聞いたレイジングハートのメッセージは聞き間違いや幻聴ではなかった。 ルイズは少しほっとする。 「それから……」 「その前に。ルイズ!」 「は、はい」 ユーノの声が低くなっている。 いつもと違うユーノの様子に、ルイズはかしこまってしまった。 「あの魔法は何?」 「あの魔法ってジュエルシードを封印するときに使った魔法?」 「そう、それ」 「あれね。スターライトブレイカーって言うの。すごいでしょ」 あの魔法はすごかった。 きっとユーノもびっくりしているんだろう。なんてルイズは考えている。 「すごいじゃないよ!」 「そうよね。すごいなんて物じゃないわよね。周りにある魔力を集めて自分の魔法にするんだもの。えーと、なんて言うんだったかしら」 「集束魔法」 「そう、集束魔法よ。集束魔法。よくできたでしょ?」 「よくできたじゃないよ!」 突然、声を荒げるユーノ。 ルイズは後ずさろうとするが体はそんなに動かない。 かわりに芋虫のように毛布の中に潜り込む。 「ルイズは集束魔法がどういう魔法だかわかってるの?」 「だから……周りにある魔力を集めて自分の魔法にする……でしょ?」 「それだけじゃないよ。とても負担のかかる魔法なんだ!スターライトブレイカーを使った後そうなっちゃったんだよ。ルイズにはまだ早いんだ。だから、教えていなかったのに。いつの間にあんな魔法をプログラムにしたの?」 「それ、ね……先に作ってたんじゃないの」 「え?」 「あのときにね。そのー、使えるような気がして、やったら使えたの。あんなふうに」 「じゃあ、あの場で?」 「うん」 「即興で?」 「う、うん」 フェレットの目がまん丸になって、あごが落ちてしまっている。 開いた口がふさがっていない。 「あー、もー。感覚だけであんな魔法を……」 「うう」 「お願いだから、そんな危険なことはもうしないでよ」 ユーノは頭を抱えて体をよじっている。 次の言葉が続きそうにない。 普段は全然怒らないユーノがすごく怒っていた。 「少しは褒めてくれてもいいじゃない」 ルイズは毛布で顔を隠してつぶやいた。 静かに扉が開けられる。 水差しを持ってルイズの部屋に入ったシエスタはもぞもぞ動くルイズを見ると、廊下に顔を出した。 「みなさん。ミス・ヴァリエールが起きられましたよ」 遠慮なくぱたぱたと足音を立て、キュルケが駆け込んでくる。 その後でタバサが静かに入ってきた。 「あらルイズ。ようやく起きたのね。待ちくたびれたわ」 キュルケの背後でタバサがうなずく。 ルイズは頭までかぶった毛布から顔を出した。 「外でずっと待ってたみたいだったけど」 「そりゃそうよ。あなたが起きたら、ここで待ってなさいってアンリエッタ王女が言ってるんだもの。ご褒美もらえるみたいだし。ねえ、タバサ」 タバサは前半にはうなずくが、後半にはうなずかない。 「ひ、姫さまが?こんなみっともないところ見せられない!」 あわてて立とうとしても立てないルイズの両肩をキュルケとタバサが押さえつけける。 「何するのよ」 「その姫さまからのご命令。ルイズはベッドから起こさないように。無理はさせないように。ですって。だから、おとなしく寝て待ってなさい」 「そんな、こんな格好で!」 「あ、もう来たみたいよ」 「え?ちょっと待って!」 だが、誰も待たない。 ドアの向こうからの新たな足音がベッドのすぐ側まで駆け寄ってくる。 目に涙を溜めたアンリエッタ王女は、その立場も忘れて寝ているルイズにすがりついた。 「ああ。ルイズ。ルイズ。よかったわ。もう大丈夫?痛いところは?」 「あ、あの。姫さま、他の人も見てますから」 アンリエッタ王女は我に返る。 周りを見てキュルケとタバサ、それに扉の前で控えているシエスタを確認すると顔を赤らめて咳払いで取り繕おうとした。 あまり成功しているとは言い難かったが。 「伝えたいことがあります。ミス・ヴァリエールはそのままで聞いてください」 よく通る声。背筋を伸ばした美しい姿勢。 それは王女として見事な物であった。 が、さっきの取り乱し方を見ては台無しだ。 キュルケは笑いを口の中にため溜めて、膝をついて礼をとる。 タバサもキュルケに続いた。 「このたびの皆の働きは、すばらしい物でした。学院を襲った土くれのフーケの物と思われるゴーレムの撃退。盗まれた宝物の奪還。そして、私の身を守り通したこともありましたね。被害は出た物の、いずれも賞賛するにふさわしいことです」 「被害が……あったのですか」 「ええ。学院の宝物庫の破損。少数の負傷者。それから……学院長秘書のミス・ロングビルが行方不明になっています」 ロングビルとはあまり会話を交わさなかったが、ルイズ、それにキュルケも少し沈んでしまう。 アンリエッタ王女はその空気を振り払うように声を上げた。 「この働きに対し、私は皆に精霊勲章を与えようと思います」 「本当ですか?」 ルイズは寝たまま驚きの声を上げる。 まさか、こんな話になってるなんて思ってなかった。 「不満……ですか?そうかもしれません。ですが、シュバリエは従軍が条件となったのです」 「いえ、そんなことありません。不満だなんて」 「では皆さん。受けてくれますね」 ルイズは首をかくかく振る。 もう、嬉しいし、びっくりするし。 声が喉で詰まってしまう。 キュルケだって顔が崩れているくらいだ。 タバサはいつもと変わらないけど。 「それでは」 シエスタが扉を再び開ける。 すぐ外に控えていた騎士が4つの勲章をのせた赤いヴェロア張りの台を捧げ持ち、アンリエッタ王女の足下に歩み寄る。 アンリエッタ王女は勲章を一つずつ手に取りタバサ、キュルケ、そして立てないルイズの胸につけていく。 「ルイズ、本当によくやってくれましたね。でも驚いたわ。あなたがあんなゴーレムを倒してしまうような魔法を使えるようになってたなんて」 「あ、あの……それは」 どう言おうかルイズはうろたえる。 ここで言っていい物かどうか決心がつかない。 それよりもキュルケがいるのが一番の問題だ。 このヴァリエールの宿敵を前に言っていいことではない。 だが助けは予想はできたが、期待はしていなかったところから来た。 「あれはルイズじゃない」 さっきから表情一つ変えていないタバサだ。 「あれはリリカルイズ。ルイズじゃない」 「えぇ?」 今度はアンリエッタ王女が驚きの声を漏らす。 しばらくタバサを見つめ、それからキュルケを見る。 「ええ……まあ、そういうことみたいなんです」 続いてルイズを見る。 「はい……そうなんです」 ついでにフェレットのユーノを見る。ユーノは首を縦に何回もコクコク振る。 「わかりました。私の勘違いのようです。ですがルイズ。あなたが学院から盗まれた宝物を守ってくれたことにはかわりありません。それは、勲章に十分値します」 「そうなんですか?」 「そうよ。ルイズ。あなた、宝物の上で倒れたのよ。覚えてないの?」 ルイズには心当たりはない。 が、じっと見るタバサの視線を受けているうちにこの話に乗った方がいいように思えてきた。 「あ、はい。そうです」 アンリエッタ王女がルイズを見ていた。 胸が少し痛む。 ──ごめんなさい。いずれ…… アンリエッタ王女は最後の勲章を手に取り、部屋にいる皆に順番に見せていく。 「この勲章は、私を守った少年のメイジに与えるつもりのものでした。しかし彼はどこにもいません。見つけることはできなかったのです。ですから皆さん。もし、その少年、あるいはリリカルイズを見つけたら王宮まで来るように伝えてください」 アンリエッタ王女は最後の勲章を台の上に置き直した。 こうして略式ではあるが勲章の授与は終わった。 アンリエッタ王女はかなり無理して滞在を延ばしていたらしい。 ルイズに「くれぐれも体を大切にね」と言って部屋を辞した後、学校からアンリエッタ王女と王宮から来た騎士やメイド達はあっという間にいなくなってしまった。 さて、その夜に起きた事件を少し記そう。 まずはルイズの部屋。 「さー、勲章とご褒美をもらったお祝いよー」 盛り上がったキュルケがかなり高級なワインをまた一つ開けた。 グラスについだ後はぐびぐび水のように飲んでいる。 「あんたねー。病人の部屋で宴会はよしなさいよ」 「いいの。いいの。あなたも一緒なんだから。ねー、タバサ」 顔をキュルケの髪の色みたいに赤くしたタバサはひたすらシエスタが持ってきたつまみを食べている。 そのシエスタはと言うと扉の方ににじり寄り脱出のチャンスをうかがっていた。 「で、では私は次を持ってきますね」 「そうはいかないわよ」 逃げられない。キュルケに捕まってしまう。 「あなたも飲みなさい」 「わ、私平民ですから」 「いいの。いいの。関係ない。ほらほらほら」 「え?きゃ?うわー」 その後どうなったかルイズは覚えていない。 ユーノに聞いてみたが、顔を赤くして口をつぐむだけだったという。 もう一つ事件がある。 その夜、行方不明になったミス・ロングビルの捜索が行われていた。 ミス・シェヴルーズも捜索に加わっていた一人で、彼女は学院近くのゴーレムに焼き払われずに無事だった森が担当だった。 森はあまり大きな物ではないが、それでも捜索を終えるのには時間がかかる。 「ここにはいないようですね」 彼女が捜索を終える頃にはもうすっかり暗くなっていた。 なら、もうここにいても意味はない。学院に帰ろうとした頃である。 彼女の耳に声が響いてきた。 「痛いー……痛いー……」 「え?」 誰もいなかったはずだ。だが確かに声が聞こえてきた。 ミス・シェヴルーズがその声をたどっていくと、一軒の小屋があった。 この小屋はすでに捜索したはずである。そのときは学院の生徒の使い魔の竜がいるだけで誰もいなかった。 「痛いー……痛いー」 また聞こえる。 「誰かいるのですか」 小屋の中をのぞいてみたが、やはり人間は誰もいない。他からもしれないと小屋から離れた。すると 「痛いー……痛いー」 聞こえる。声が。 でも、このあたりには誰もいない。小屋の中にもだ。 「ま、まさか!」 ミス・シェヴルーズはある可能性に気づく。 ──まさか、あの声は! ミス・シェヴルーズはその可能性の意味するところに恐怖する。 「きゃああああああああああああああ」 そして彼女は走った。走って、走って、走った。 恐ろしい物から逃げるために走った。 さて、次の日のことである。 教室ではある噂が立っていた。 「ねえ、ねえ。タバサ。聞いた?」 タバサは首をかしげる。 教室に着いたばかりのタバサはまだなにも聞いていない。 「ミス・シェヴルーズがね。見たんだって」 「なにを?」 「幽霊よ。ミス・ロングビルの幽霊!」 タバサは微動だにせず、じっとキュルケを見る。 「興味あるみたいね。昨日の夜にミス・シェヴルーズが森の中に入ったら聞こえてきたんですって。痛い、痛いって。きっとミス・ロングビルがあの事件で……」 タバサは動かない。山のごとしである。まばたきすらしない。 「ミス・シェヴルーズも呪いで寝込んでいるって言うし。ちょっと怖いわね。あれ、タバサどうしたの?」 キュルケは手を伸ばし、タバサの肩をぽんと叩く。 するとタバサはそのまま倒れてしまった。立ったまま、わずかも動かずに。 「きゃーー。タバサ?タバサ?この子、目を開けたまま気絶してるわ?どうしたのよーーっ」 この後、ミス・ロングビルの幽霊は呪いをかける幽霊として末永く学院に語り継がれることになる。 そうそう、一つ忘れていた。 話は前後するが、ミス・シェヴルーズが森から逃げ出した後のことである。 森の小屋の中では、風韻竜がこんなことを言っていた。 「きゅぅううーーん。きゅぅうううーーん。痛いのー、痛いのー。お尻が痛いのー。とっても痛いのー。お姉様のばかーー」 前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7670.html
悩みも苦しみも無い世界 月明かりも満足に射さない夜の暗い廊下を、ルイズは息を切らせながら必死に走っていた。 時折立ち止まっては辺りを見回し、誰も居ない事が解ると暫し休息する。 そして、呼吸が整ったら再び駆ける――その繰り返しだった。 「…もう嫌よ」 ルイズは呼吸を整える為に立ち止まり、消え入りそうな声で呟く。 明かりの一つでも欲しい所だが、生憎と明かりになりそうなものはここには残っていない。 ”あいつ”が全て壊してしまったからだ。 ――どうしてこんな事になってしまったのだろうか? 自分はただゼロでない事を……魔法を使えるのだと言う事を証明したかっただけなのだ。 だから、何十回、何百回と失敗しようと、日が沈んで夜の帳が落ちようと使い魔召喚の儀式を続けた。 そして、漸く何かを召喚できたのが…つい先ほどの事。 …その召喚した者の所為でこんな事になるなど、誰が想像できようか? いや、それ以前に…あんな物が呼ばれるなどと言う事自体、前例が無い。 一際大きな爆発が巻き起こった時、自分は確かに不気味な音が響くのを聞いた。 その音が聞こえなくなり、爆発による煙が晴れた後、真っ黒な召喚のゲートの手前に”あいつ”は居た。 召喚した”あいつ”は不気味な姿をしていたが、最初こそ優しそうな口調で話しており、害は無さそうに思えた。 しかし、コントラクト・サーヴァントを行おうとして近づいた自分の首を”あいつ”は、いきなり締め上げてきた。 それを助けてくれたのはコルベール先生だったが、直後にあいつの持っていた銃のような物で瞬く間に蜂の巣にされた。 その時、彼の背後の黒いゲートから巨大な芋虫のような不気味な生き物が、何匹も何匹も這い出てきたのだ。 不気味なその生物は倒れたコルベール先生に、そして自分にも近づいてきた。 その様子に自分は恐怖を感じ、その場から逃げたが、あいつは相変わらずの優しげな口調で語りかけながら後を追いかけてきた。 学院へと逃げ延びる事はできたが、果たしてその判断は間違っていたのだろうか? あの後直ぐに自分の召喚した”あいつ”や、開いたゲートから際限無く湧き出るあの化け物は、他の生徒や教師を無差別に襲い始めたのだ。 そして、殺された生徒や教師はその後―― 「――っっ!」 恐怖に震える肩を抱きながら、唇を噛み締める。 …怯えるなと言われても無理だ。あのような”不気味な姿”にされた彼等を見れば…嫌でも震えが来る。 「帰りたい…」 こんな地獄のような所にはもう一秒でも居たくない。 魔法なんか使えなくていい…、使い魔なんか居なくていい…、ゼロと言われていてもいい…。 今のルイズの頭には当初の目的など欠片も存在していない。 ただ、優しい姉の居る実家に帰りたい、という思いだけが彼女の中に在った。 「う、うう……ちい姉さま…、怖いよ…」 ルイズは姉を呼びながら人知れず涙を流した。 『悪い夢を見て苦しいのか?』 ――突然聞こえた声に、ルイズは反射的に身を起こす。 凄まじい勢いで辺りを見回し、声の主の姿を探すが、何処にも姿が見えない。 否、何時の間にか辺りには黒い霧のような闇が広がっていたのだ。 『だったら悪い夢からは早く覚めないとな…』 遠くから語りかけているようでもあり、直ぐ近くで話しているようにも感じる。 まるで位置が掴めず、ルイズは恐怖と焦りでパニックになりそうだった。 『俺も前は色々と苦しんだ…。だが、今はそんなに苦しんでいたのが嘘みたいにスッキリしている…』 「ど、何処に居るのよ!?」 たまらず叫ぶ。しかし、声の主は姿を見せない。 『お前の悩みを解決してやるよ…、要らない殻を脱げばいい…。そうすれば悩みは解決さ…」 『そうだ…ミス・ヴァリエール。君も殻を脱ぎなさい』 新たに聞こえた声にルイズは驚愕し、両目を見開く。 「ミ、ミスタ・コルベール!?」 そう…、その声は紛れも無く殺されたはずのコルベールの声だった。 死んだはずの彼の声が聞こえる…、それの指す意味は―― 『こいつも結構苦しんでいたみたいだが、今はスッキリしているそうだ…』 『ああ…、君のお陰だよ。わたしは昔、大罪を犯してその罪に長く苦しんでいた。 だが、今はその苦しみもまるで感じない。そう、生まれ変わった気分だよ。実に良い…、殻の具合もね」 実に楽しそうな、満足感に包まれた声で姿の見えないコルベールは語る。 彼の罪とは何なのか…、だがルイズには気にしている余裕は無い。 杖を構え、不安と恐怖に押しつぶされそうな自分を支えるのに精一杯だ。 『ヴァリエール…、貴方も大人しく殻を脱ぎなさいよ? そうすれば、今度はお互い仲の良い友人になれるわよ?』 『何も苦しむ必要が無くなって、悩みも無くなる。わたしも復讐の事なんかどうでも良くなった』 『ルイズ、君もこうなれば本当の意味で仲間になれるぞ? 少なくとも、ぼくはモンモランシーと最良の関係を築く事ができたさ』 『そうよ、ルイズ。貴方も早くこっちに来なさい』 『ゼロのルイズ~、他に何も無いんだから、大人しく殻を脱いじゃえよ』 知っている、知りすぎている声が次々と聞こえてくる。 ああ、もう皆は変わってしまったんだ…と、ルイズは察した。 この学院においてゼロのルイズと馬鹿にされる自分に、友人など皆無だった。 今聞こえてきた声の持ち主も、大部分は自分を嘲笑していた。 なのに、どうしてこんなに申し訳ない気持ちになるのだろうか? やはり嫌っている相手であろうと、あんな姿になってしまう事は良しとしないからだろう。 『ほら…こんなにお友達が呼んでるぜ? お前も早く要らない殻を脱ぎな。それとも…』 足音が聞こえ、ルイズは振り返る。 『遊びたいのか? なら、遊ぼうか」 大きな顔がニヤニヤと笑っていた。 「あ、ああ…」 恐怖が限界に達し、ルイズは後退る。 そんな彼女を見つめながら、手にした銃を構え、優しそうな…狂気に満ちた声で語りかけた。 『ル~~イズちゃ~~ん、一緒に遊びましょ~~~う』 「いやああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」 ――闇の中に少女の絶叫が木霊した。 平賀才人が覚ますと、そこは先程まで居た場所とはまるで違う”異世界”だった。 黒い太陽が天に昇り、辺りは赤黒く染まっている。 何故このような場所に自分は居るのだろう? 才人は記憶を辿る。 修理したパソコンを受け取り、家へと戻る帰り道、目の前に突如として現れた黒い鏡のような物。 何故かサイレンのような不気味な音がするそれに不信感を抱きつつも、彼は持ち前の好奇心でそれを潜ってしまった。 その途端、真っ赤な津波が自分に襲い掛かり、そのまま飲み込まれた。 そして、濁流にもまれる中、意識を失ってしまったのだ。 「で、目が覚めたら…こんな所に」 と、呆然としている彼の背後から声が聞こえてきた。 『やった、また成功した。召喚の成功回数、私が一番だね』 『うん、なかなかやるじゃん。こいつも良い殻になりそうだ』 妙に歪んだ男女の声。男は大人の物のようだが、女の声は少女の物だ。 「だ、誰ですか――」 尋ねながら振り返り、彼は言葉を失った。 そこに居たのは、およそ人とは掛け離れた姿をした二体だった。 一つは巨大な頭の上に人の上半身が乗っかったような姿で、 もう一つは四つん這いで、細い手足に正面から見たら体が隠れてしまうほど頭部が巨大な姿をしている。 見ているだけで恐怖と嫌悪感を覚えさせる醜悪な異型である。 「うわあああ!? な、何なんだ!?」 悲鳴を上げる彼を見て二体は笑う。 『そんなに怯えなくていいわよ? 直ぐに済むから。そうしたら楽しく過ごせるから』 『お前も俺達と一緒に行こうぜ』 二体の言葉の意味を才人は理解できない。いや、理解したくも無いというのが本音だ。 「こ、ここはどこだよ!? 俺を元の場所に返せよ!?」 『帰る必要なんて無いわよ。ここは良い場所よ? 悩みも苦しみも無い世界だから』 『お前も悩んでいるようだな? 大人しく殻を脱ぎな。久しぶりに最高の気分が味わえるぜ』 二人の言葉が終わるや、才人を芋虫のような姿の化け物が取り囲む。 「い、いやだ! 来るなーーーーーーー!!!」 彼の叫びは怪物の群れに飲み込まれた。 それを二体は優しそうな目で何時までも見つめていた ここは嘗て別世界の地上から追放された存在が支配し、黒い太陽が昇る世界、ハルケギニア。 全てが一つの存在となったこの世界には、最早悩みも苦しみも悲しみも、種族の違いによる争いも無い。 ここを天国と呼ぶか、地獄と呼ぶかは人しだいだ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー SIREN2より三沢 岳明(闇人甲型)と闇霊を召喚
https://w.atwiki.jp/ws_wiki/pages/5656.html
autolink ZM/WE13-31 カード名:可愛い担い手 ルイズ カテゴリ:キャラクター 色:赤 レベル:0 コスト:0 トリガー:0 パワー:2500 ソウル:1 特徴:《魔法》?・《虚無》? 【永】他のあなたの「集中」を持つキャラ1枚につき、このカードのパワーを+500。 N:ねえ、これどう? H:じゃあ、これ着てみるから……て、手伝いなさい レアリティ:C illust. 12/05/10 今日のカード。 集中持ちの数だけパンプされるという、珍しい条件を持つ。 とはいえ1枚でバニラと同等であり、上回るのは2枚目以降と少々心許ない。 自身を並べても相互に強化されないため、投入枚数が多すぎても効果を発揮しきれない部分がある。 応援持ちを入れる余裕がないほどに集中持ちを投入したデッキならば、出番があるかもしれない。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3278.html
――メリダ島、ミスリル西太平洋戦隊基地、食堂。 「さーて、メシだメシ」 「あ、お疲れ様です」 午前の訓練を終えたクルツが昼食をとろうと食堂に入ったところ、見知らぬ顔に声を掛 けられた。十代後半と思しき日本人の少年だ。 「おーお疲れ、って見ない顔だな。お前新入り?」 「はい! 平賀才人伍長であります! 本日付けで西太平洋戦隊に配属になりました! よろしくお願い致します!」 才人は敬礼をしながら、元気良く自己紹介をする。 「元気があっていいねぇ。俺はクルツ・ウェーバー、階級は軍曹だ。ま、頑張れよ」 「はい! ありがとうございます!」 「ところでさ、もう他の連中には挨拶したのか?」 「ええ、一通りは済ませたんですけど…」 才人はそこまで言うと口籠もってしまった。クルツは不思議に思い、彼に聞き返す。 「ん? どした?」 「いやあの、あそこに座ってる人なんですけど、挨拶しても目すら合わせてくれないんで すよ」 才人が指し示す方向にクルツが目をやると、見知った仏頂面が映った。 「ああ、あのむっつり顔は相良宗介って言うんだ。いつもあんな感じだから、気にしなく ていいぜ」 「そうなんですか…でも、それにしては様子が変じゃないですか?」 「変って言われてもなぁ。どれどれ?」 クルツは改めて宗介を見やる。彼の顔は青白く、目は虚ろ。「馬鹿な…消えた…」「突 然…」「ボン太くんが…」などといった事をうわ言のように繰り返している。 「おーい、ソースケー、生きてるかー、しっかりしろー」 クルツが宗介の目の前で手を振りながら問いかけてみるが、反応は無い。 「こりゃ重症だな。まぁ、気にすんな。それよりメシはもう食ったか?」 「いえ、まだです」 「んじゃ、早くメシにしよーぜ」 そう言って宗介の側を離れる二人。宗介自身は相変わらず独り言を繰り返していた。 相良宗介のもう一つの愛機、ボン太くん。 『ゼロ』と呼ばれる落ちこぼれメイジ、ルイズ。 この一人と一匹(一機?)の出会いがハルケギニアの歴史を変えてゆく…… ――異世界ハルケギニア、トリステイン王国、トリステイン魔法学院。 「え? うそ…この私が?」 使い魔召喚の儀――学院の生徒が二年生に進級する際、自分の使い魔を召喚する儀式で ある。その儀式で信じられない出来事が起こった。 別に信じられない出来事といっても、人間の平民を召喚してしまった訳では無い。魔法 の才能が無い事で有名な『ゼロ』のルイズこと、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ ド・ラ・ヴァリエールが何と一回で召喚を成功させたのである。 その使い魔の特徴を箇条書きで記すと、 ・体の色は全体的に黄色で、所々に茶色のまだら模様。 ・顔の横から突き出たお皿の様な大きな耳。ネズミ? ・埃が入り放題ではないだろうかと思われる大きな目。 ・黄色のアクセントがおしゃれな緑のつば付き帽子。 ・これまたおしゃれな赤い蝶ネクタイ。 ・短足。 ・小さな子供なら、思わず抱き付きたくなる何かファンシーな感じ。 である。 「あのルイズが…『ゼロ』のルイズが……嘘だ! これは何かの間違いだ! しかも生き 物を召喚してるし!」 「でもよ、あんな生き物見た事無いぞ」 ルイズの召喚の様子を周りで見ていた生徒達は、ルイズが召喚したばかりの使い魔の姿 に戸惑っていた。何しろ、今迄に見た事が無い姿をしているのだから無理も無い。 そんな周囲を他所に、ルイズ自身は召喚を成功させた事に一人興奮していた。 「やややややったわ。つつついに成功しししたのよ。ここここここここここれでもう馬鹿 にされなくてすすす済むわ」 ルイズよ。嬉しいのは分かるが、先ずは落ち着くんだ。まだ契約が残っているぞ。 「そ、そうよね。まだ喜ぶのは早いわ。とにかく落ち着かなくちゃ。えーと、気持ちを落 ち着かせるのに有効なのは……深呼吸ね!」 その通り。先ずは大きく息を吸って、 「スゥーッ」 そして、ゆっくりと吐く。 「ヒッ、ヒッ、フゥー」 「ミス・ヴァリエール、それは深呼吸では無い。ラマーズ法の呼吸法だよ」 「わぁっ!!」 背後からいきなり声を掛けられたルイズは驚いて尻餅をついてしまった。声の主は今年 の儀式の監督を務めるコルベールだった。 「大丈夫かね? まだ落ち着きを取り戻していないようだが」 「え、ええ、何しろ、魔法がこんなに上手く出来たのは初めての事ですから」 「なら、休憩をとりなさい。このまま契約を行うのも辛いだろう」 「良いんですか?」 「少しくらいなら構わないよ。時間は君の判断に任せよう。終わったら私に声を掛けなさ い」 「分かりました。ありがとうございます」 ――六時間後。 「ふわぁー、あ、先生、休憩終わりましたぁ」 その場で大の字になって寝ていたルイズは、欠伸をしながらゆっくりと起き上がった。 太陽は空の向こうに沈みかけ、辺りは闇に包まれようとしている。 「う、うむ。では、早く契約を済ませなさい」 コルベールの肩は小刻みに震えていた。まるで今にも怒り出したいのを必死に抑えてい るかのように。 「ああ、そう言えばそうでしたね。じゃ、早速」 マイペースなルイズは謎の生き物と契約を交す。最後の口付けが終わると、謎の生き物 の左手に使い魔である事を証明するルーンが刻まれた。 「先生、終わりました」 「契約もちゃんと出来たようだね。君の番で最後だから儀式はこれで終わりだ。それじゃ あ皆、戻ろう…って、あれぇぇぇ!?」 コルベールが他の生徒達を解散させようとして周りを見回した途端、彼は驚きの声を上 げた。他の生徒達が既にいなくなっていたからだ。 「同級生が頑張っているというのに、それを見届けてあげるように指導出来ないとは…… ああ、私は教育者として、まだまだ力不足だというのか…」 「元気を出してください、先生。私なら気にしてませんから」 時間を遅らせた張本人であるルイズは既に蚊帳の外といった感じだ。 「まあいい。では、ミス・ヴァリエール、君も戻りなさい」 「あの、先生、一つ気になることがあります」 「なんだね?」 「この使い魔、さっきから微動だにしないんですけど」 使い魔となった謎の生き物は召喚された時から静止したままだった。本当に生きている のかも疑わしい。 「おかしいなあ」 ルイズはもっと良く確かめようとして使い魔の頭部を両手で掴んだ。ただ、勢い良く掴 んだので、使い魔の頭部が――外れた。 「く、首が、首が……」 ルイズはそのまま意識を手放した。 「しっかりするんだ! ミス・ヴァリエール……ん? これは…」 コルベールが気を失ったルイズを起こそうとした時、彼は使い魔の頭部に奇妙な部分を 見つけた。使い魔の頭部の内部は中身が無く、空洞になっていたのだ。 「一体、どういう事だ?」 詳しく調べてみようと使い魔の胴体に触れた瞬間、彼に異変が起こった。 「分かる、分かるぞ! この使い魔の事が手に取るように分かる!」 手を触れた瞬間、コルベールの頭の中に使い魔の全容が流れ込んできたのだ。この時、 使い魔の左手のルーンが光り輝いている事に彼は気付かなかった。 「これは生き物などでは無い! 人間が中に入って操るゴーレムだなんて前代未聞だ! 我々の世界の常識を遥かに超えている! 実に素晴らしい! 名前は……ボンタクン? そうか! ボン太くんというのか!」 コルベールの歓喜の声が夜の静寂を打ち破るように響き渡る。ルイズが起きていたなら、 確実にかわいそうな目か、生暖かい目で見ていただろう。 「む、こうしてはおれん。早速、試してみなければ」 コルベールは逸る気持ちを抑えつつ、素早くボン太くんの中に入り込む。そして、ボン 太くんの頭部を被り、頭部と胴体を繋ぐ金具を固定する。これで準備は完了だ。先程、ル イズが強く持った時に頭部が外れてしまったのは、この金具が固定されていなかったから である。 (おおおっ! これは凄いぞぉぉぉっ!) 外見からは想像も付かない高性能ぶりにコルベールの興奮は最高潮に達した。 「ふもっ! ふもっ! ふもーーーーーっ!」 ボン太くん(コルベール)は嬉しさの余り、跳んだり跳ねたり、寝そべってゴロゴロと 転がったり、踊ったりした。研究や発明が好きな彼にとって、このような物に出会えた事 が純粋に嬉しかったのだ。 「…う、うーん」 その勢いはエスカレートし、ひとり『フリッグの舞踏会』になろうかとしていた時、ル イズの声が聞えた。気を失っていた彼女が目を覚ましたのだ。 「あれ? 動いてる……そっか、さっきのは気のせいだったのね」 (しまった、興奮する余り、ミス・ヴァリエールの事をすっかり忘れていた) コルベールは自分の迂闊さに後悔した。だが、今更、実は自分が中に入っていたなどと 告白する訳にもいかないだろう。 (今、私が正体を明かせば、まともな使い魔が召喚出来たと喜んでいる彼女の気持ちを踏 みにじる事になってしまう…) 「コルベール先生もいなくなってる……やっぱり私が時間を掛け過ぎたから、怒って帰っ ちゃったのかな…」 「ふも…」 ボン太くん(コルベール)はルイズの肩にそっと手を置いた。 「え? 慰めてくれるの?」 「ふも」 「ありがとう、やさしいのね」 (何とか、落ち着いてくれたようだな) 「何時までもここにいても切りが無いわ。私の部屋に行くわよ」 (ミス・ヴァリエールには悪いが、暫くはこのままの状態で誤魔化すしかないか…) ボン太くん(コルベール)はそう思いながら、ルイズの後に続いた。 こうしてコルベールの、ボン太くんの中の人としての生活が始まった。
https://w.atwiki.jp/animerowa/pages/76.html
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 「ゼロの使い魔」のメインヒロイン。名前が長い。 CVは釘宮理恵。 「魔法少女リリカルなのは」で、なのはの親友であるアリサ・バニングス役を、 「うたわれるもの」で、アルルゥの親友であるカミュ役を務めた。 [本編での動向] 目下、一番ろくでもない目に遭っている人。 具体的に言うと、朝倉涼子に拷問を受け爪を剥がされ、草薙素子に拷問を受けパンツを濡らして全てを見られるなど。 さらに衛宮士郎と出会い、徐々ではありながらもようやく調子を取り戻しつつあった矢先、八神太一の暴挙により彼を目の前で失ってしまう。 挙句間も無く訪れる放送で、使い魔平賀才人と友人タバサの死亡まで告げられ……暴走。 グラーフアイゼンの一撃でビルを吹き飛ばし、素子達を生き埋めにする。 才人の仇を討つため、殺し合いに乗り……負の螺旋は止まらない。 第二放送後は才人の首とともに朝倉を探して遊園地に乗り込むことに。精神は崩壊し、ネクロフィリアと化している。 遊園地内で情報交換を求めてきたグリフィスを襲撃するが、逆に打ち負かされ、才人の首と腕を奪われる。 その後グリフィスの『儀式』によって精神を完全崩壊させた彼女は、彼の命に従いホテルを襲撃する。 ホテルをまず内部から攻撃、外部からトドメを刺そうとするが、直前で高町なのはに阻まれる。 魔法少女対決の末、一度は敗北するも……執念で立ち上がり、なのはの喉笛を噛み千切るという狂気を見せる。 直後、なのはの親友であるフェイトと戦闘開始。 完全崩壊した精神は虚無の力をさらに悪質なものにし、タチコマなどさらなる被害者を生むが……最後はフェイトの怒りを買い、悲しい死を遂げる。 また、彼女のホテル破壊は間接的だが野原みさえの死亡にも繋がっている。 支給品は水鉄砲、もぐらてぶくろ、バニーガールスーツ。 名前 コメント これはひどい -- 名無しさん (2009-07-30 02 32 14) 虚無のメイジとはこれ死狂いなり、、、 -- 名無しさん (2009-06-27 00 05 48)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9159.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第五十一話「脅威のカブトザキラー」 異次元人ヤプール人 ミサイル超獣ベロクロン 一角超獣バキシム 蛾超獣ドラゴリー 火炎超獣ファイヤーモンス 異次元超人カブトザキラー 登場 超獣。その呼称をつけられた怪獣群が最初に現行地球人に観測されたのは、西暦1972年のことである。 その年、地球に突如として異次元人ヤプール人が侵略を仕掛けてきた。 ヤプール人は、それまでの侵略宇宙人とは比較にならないほどの驚異的な力を持った侵略者であった。 侵略の武力として怪獣を送り込むのは他の異星人もよく使う手段なのだが、ヤプール人は自分たちの怪獣に 独特の改造を施して、最早全く別の生物に変えたものを手駒としていたのだ。その、地球人に 「怪獣を超えた怪獣」という意味で「超獣」と呼ばれることになる生体兵器第一号のベロクロンは、 通常の怪獣とは桁違いの破壊力でもって地球防衛軍を全滅させた。ベロクロンは後に超獣専門対策チーム・TACと 新たなウルトラ戦士・ウルトラマンエースによって倒されたのだが、ヤプールはその後も多種多様な超獣を 次々送り込み、エースとTACを徹底的に苦しめた。 ヤプールの侵略兵器である超獣の脅威は、後世にもしっかりと伝わっている。怪獣の生命力と 兵器の破壊力を併せ持つ超獣は、怪獣との長い戦いを勝ち抜いた現在の地球の人々にも 心の底から恐れられているのだ。 その超獣が今、ハルケギニアに牙を剥いて襲い掛かる! 「グロオオオオオオオオ!」 「ギギャアアアアアアアア!」 「ギョロロロロロロロロ!」 魔法学院前の平野に並ぶ、ベロクロン、バキシム、ドラゴリーの三大超獣。狂ったように咆哮を 上げるそれらを見上げ、才人は顔面蒼白になって戦慄していた。 「何てこった……! 超獣が、一気に三体もだなんて……!」 今までの『レコン・キスタ』の工作活動の裏にはどれも、侵略者の影があった。そのため才人は今度も、 宇宙人かその配下の怪獣が現れるものとは予測していた。 しかし目の前の光景は、その予測を超える事態であった。超獣ということは、ヤプール人自らが 指揮を執っているに相違あるまい。 「あぁぁ……!」 「サイト、どうしたの? 確かに怪獣が一度に三体なんて大変なことだけど、そこまで恐れること ないんじゃないの?」 震える才人を案じて、ルイズがそう呼びかけた。彼女からしたら、今の事態がそれほどの 脅威であるとは思えないのだ。数だけならば、タルブ戦や円盤生物軍団、ヒッポリトの大怪獣軍団の 時などの方が上回っている。 「超獣はただの怪獣じゃないんだよ! 見ろ、攻撃を始めるッ!」 「グロオオオオオオオオ!」 才人の言った通り、ベロクロンが腕と身体を広げて攻撃の構えを取った。 直後に、全身に生えた突起から大量のミサイルが発射! ミサイルの雨は別々の軌道を描き、 学院の周囲の大地に着弾。爆発を起こし、瞬く間に学院を大火災で包囲した! 「きゃあああああッ!? い、今の何!? あいつ、何を飛ばしたの!?」 一瞬の出来事に、ルイズやコルベールは愕然となった。科学文明が中世レベルのハルケギニアには ミサイルなど存在しないので、正体が分からないのは当然である。 「ミサイルだ! 自ら火を噴いて空を飛び、軌道を曲げることの出来る大砲の弾の進化形みたいなもんだ!」 「そ、そんなものが存在するっていうの!?」 「今見ただろうが! 超獣はそういう破壊兵器を全身に仕込まれた怪獣兵器なんだよ!」 ベロクロンだけでなく、バキシムとドラゴリーも攻撃を始める。 「ギギャアアアアアアアア!」 「ギョロロロロロロロロ!」 バキシムは楕円形の両手と鼻先からバルカン砲を発射、ドラゴリーは両腕の先端からロケット弾を放ち、 ベロクロン同様学院の周りを火の手で覆い込んだ。これでは、誰も学院の外へ逃げることが出来ない。 しかしどういう訳か、学院そのものには矛先を向けない。 「グロオオオオオオオオ!」 ベロクロンは才人たちを、才人を見下ろし、身体を揺すって笑うような仕草を見せた。 「くそッ、あいつら……!」 才人には、超獣を通してヤプール人が挑発しているように思えた。 人間どもはいつでも殺せる。早く変身して戦え、と言っているようであった。 「……ルイズ、先生、一旦下がろう! ここは危険だ!」 「ええ!」 「う、うむ!」 才人は安易に挑発に乗らず、二人とともに学院の方へ退却する。 「うわははははははは!」 その時に、復活したメンヌヴィルが狂ったような笑い声を上げた。彼はコルベールに向けて叫ぶ。 「見ろ、隊長殿! これが究極の炎だ! 実に素晴らしいだろう! このまま世界の全てを 焼き尽くしてしまいそうではないか!」 コルベールは超獣たちの起こした、大地を焦がし、その後に何も残さないような勢力と規模の 火災を見回し、冷や汗を垂らした。 「これが……こんなものが、究極だと……!?」 メンヌヴィルはコルベールの様子に構わずに続ける。 「俺はあんたに近づこうと磨いた自分の炎に自負を持っていた! しかしそんなものは、 この炎を見せてもらった時に砕け散ったよ! 所詮メイジの、人間の炎など、これと比べたら ちっぽけなものでしかなかったのだ! そして俺は思った! この炎が欲しい、と! 俺の依頼主殿は、快く応えてくれた!」 「ま、まさか……!」 才人が目を剥いてメンヌヴィルを見やる。 「あんたにも見せてやるぞぉ、コルベール! 俺が手にした、究極の炎を! その炎で あんたを焼き、俺は人間を超越するのだぁーッ!」 絶叫したメンヌヴィルの身体が、降りかかった火災に呑まれた。 かと思った次の瞬間に、炎の中から新たな超獣が立ち上がった! 「ア――――――――オウ!」 「超獣ファイヤーモンス! メンヌヴィルは超獣に改造されてたのか!」 赤と青の色彩の鋭角的な超獣を端末で調べた才人が叫んだ。超獣は地球の生物と宇宙怪獣を合成し 改造して作られると言われている。ヤプールの技術力ならば、人間と超獣を合成することも簡単なのであろう。 変わり果てたメンヌヴィルを見上げて、コルベールは大きく舌打ちする。 「副長……とうとう悪魔に魂を売ったのか……!」 「ア――――――――オウ!」 ファイヤーモンスはとがった口から火炎を吐き出す。メンヌヴィルだった時の炎とは 比べものにならない、人間などあっという間に焼き尽くす地獄の業火だ! 「うわぁぁぁぁぁッ!」 「きゃあぁ――――――――!」 業火が三人を襲う。このままでは学院にたどり着く前に全滅は必至。そのため、才人は ウルトラゼロアイ・ガンモードを手にルイズとコルベールから離れた。 「俺が囮になる! その間に逃げてくれ!」 「ま、待ちなさいサイトくん! 危険すぎる!」 「先生危ないッ!」 コルベールが止めようとしたが、火炎が飛んできたのでルイズが慌てて引っ張って助けた。 「この野郎……人間であることを捨ててまで、そんなに『究極』が欲しかったのかよ!」 才人はゼロアイのビームで威嚇射撃を行い、超獣たちの気を引きつける。しかしすぐに ファイヤーモンスが火炎を放ち、反撃してきた。 「ア――――――――オウ!」 才人の姿が一瞬にして、炎の中に消えた。 「サイトくぅーんッ!」 絶叫するコルベール。しかし、才人に問題はない。 「デュワッ!」 炎の中からウルトラマンゼロが立ち上がり、ファイヤーモンスにアッパーの一撃を食らわせた。 不意打ちをもらったファイヤーモンスはヨタヨタと後退する。 「ウルトラマンゼロ! やっぱり来てくれたのか!」 「サイトはゼロが助けてくれたはずです。先生、下がりましょう」 ゼロの登場に安堵するコルベール。急かすルイズとともに学院の方へ下がっていく。 「ジュワッ!」 「ア――――――――オウ!」 ゼロの方は持ち直したファイヤーモンスと対峙している。しかしその周りにベロクロン、 バキシム、ドラゴリーが集まり、ゼロの前方を取り囲んだ。 「グロオオオオオオオオ!」 「ギギャアアアアアアアア!」 「ギョロロロロロロロロ!」 ゼロに立ちはだかる四大超獣。無敵の戦士、ウルトラマンゼロも一度に四体を相手にするのは厳しいだろう。 だが既にご存知の通り、ゼロには頼もしい仲間たちがいるのだ! 『テェヤッ!』 『ファイヤァァァァ――――――――!』 『ジャンファイト!』 窓ガラスのきらめきから、大空の彼方から、宇宙空間からミラーナイト、グレンファイヤー、 ジャンボットが駆けつけた! 彼らはそれぞれベロクロン、バキシム、ドラゴリーに飛び掛かる。 「グロオオオオオオオオ!」 「ギギャアアアアアアアア!」 「ギョロロロロロロロロ!」 ゼロの仲間たちともつれ合って転がっていき、学院から引き離される三体の超獣。そのお陰で、 ゼロはファイヤーモンスと一対一で戦うことが出来るようになった。 『メンヌヴィル……罪のない人々を殺し、あまつさえヤプールに魂を売り渡すお前のような悪は、 俺は絶対に許さねぇ! 引導を渡してやるぜッ!』 ゼロはメンヌヴィルに対して激しい怒りを抱いていた。人間の中にも、ルイズたちのように 心清き者がいる一方で、侵略者にも負けないほど性根の腐ったどうしようもない悪人がいることは 分かっている。だが、メンヌヴィルはその中でも極めつきの人間であった。人間同士の諍いに 手を出してはならない決まりがなければ、とっくに叩きのめしていただろう悪党だ。 超獣に変じたのは、むしろ好都合。この手でお前の悪事に終止符を打ってやる! とゼロは 義憤に燃えていた。その怒りは、ファイヤーモンスの炎だって凌駕する勢いだ! 「ア――――――――オウ!」 『行くぜッ!』 そして、ゼロとファイヤーモンスの決闘の火蓋が切って落とされた! ゼロたちが超獣を食い止めてくれたお陰で、ルイズとコルベールは学院の中庭まで戻ることが出来た。 そこでは既に、キュルケとタバサによってオスマンたち人質が解放されていた。 「おぉ、ミスタ・コルベール。無事であったか」 「ウルトラマンゼロのお陰です。サイトくんも、彼に助けてもらったことでしょう」 無事を確かめ合うオスマンとコルベール。だが喜んでばかりはいられない。超獣たちの放った火は 相当な勢いで広がり、学院の一部に燃え移り出したのだ。 「む、いかん! 皆の衆、水のメイジを中心にすぐに消火に当たりなさい! 迅速に、しかし 慌てずに取り掛かるのじゃぞ!」 オスマンの号令で、教師生徒に関係なくメイジたちが慌ただしく動き始めた。怪獣災害が 発生するようになってから、こういう時のために非常訓練を施すようにしておいたのが幸いし、 メイジたちは比較的整然とした行動で学院の火を消していく。銃士隊もそれに倣う。 「ちょっと、隊長さん! しっかりしてよ!」 だがそんな中で、キュルケがいきなり大声を出した。ルイズがそちらに身体を向ける。 「どうしたの、キュルケ! 何かまずいことが!?」 事態が事態なので、何事かと焦るルイズ。キュルケの面前には、アニエスが腰を抜かしてへたり込んでいた。 「それが……この銃士隊の隊長さんが、火災が起きてからこんな風に腑抜けになって動かなくなっちゃったのよ」 「あぁぁぁ……!」 アニエスは学院を覆い込む大火災を見上げ、口をだらしなく開けてガタガタと震えていた。 普段の毅然とした様子が嘘のような様子に、ルイズは驚く。 「そういえば、ダングルテールは焼き払われてアニエスだけ生き残ったって……まさか、 その時のトラウマが蘇ったの!?」 そうとしか考えられない。今の状況は、ダングルテール地方の滅亡の時と酷似しているのだろう。 アニエスは二十年前の古い記憶が呼び起こされてしまったのだ。 ルイズとキュルケでどうにか活を入れようとしたが、アニエスはどうやっても正気を取り戻してくれなかった。 『せいッ! とぁッ!』 「グロオオオオオオオオ!」 ミラーナイトはベロクロンに正面からチョップ、キックを叩き込んでいる。自分を上回る巨体で、 改造により筋力も並々ならぬベロクロンだが、ミラーナイトは巧みな技量で一方的に連撃を入れ、 ベロクロンを追い込む。 「グロオオオオオオオオ!」 『ふッ!』 後退したベロクロンは手から光刃を連射して反撃するも、ミラーナイトは鮮やかなバク転でかわし切った。 「ギョロロロロロロロロ!」 『むぅッ!』 ドラゴリーは両眼と口から稲妻状の怪光線を放ち、ジャンボットを狙い撃つ。ジャンボットは光線に 晒されるも、身を固めて光線を耐え切った。 『ビームエメラルド!』 そして頭部から反撃のビームエメラルドを発射! ドラゴリーの胸部を撃った。 「ギョロロロロロロロロ!」 攻撃後の隙を突かれたドラゴリーはバタバタ飛び跳ねてもがいた。 「ギギャアアアアアアアア!」 バキシムはバルカン砲の集中砲火でグレンファイヤーをひたすら攻撃する。しかしグレンファイヤーは 炎を全身に纏い、バルカンを防ぐ。 『こんな豆鉄砲が効くかよぉ! ファイヤァァ――――!』 バルカンを弾きながら突進し、バキシムの巨体を弾き飛ばす! 「ギギャアアアアアアアア!」 そしてゼロはファイヤーモンスのどてっ腹に横拳を叩き込んだ。 『うらぁッ!』 「ア――――――――オウ!」 よろけたファイヤーモンスは火炎を吐いて反撃。だがゼロはウルトラゼロディフェンサーで 火炎を易々と防御する。 『はッ!』 「ア――――――――オウ!」 接近戦で上回り、火炎はシャットアウトする。ファイヤーモンスは誰がどう見ても劣勢であった。 しかし突如としてファイヤーモンスの頭上の空が割れ、その中から巨大な剣が降ってきて ファイヤーモンスの手中に収まった。そして刀身に炎が灯る。 ファイヤーモンスの切り札、炎の剣だ! 昔に戦ったウルトラマンエースはこれに串刺しにされ、 生死の境をさまよったことがある。それほどに危険な代物だ。 「怪獣が武器を!?」 驚くルイズ。これまで様々な怪獣がいたが、まさか怪獣が武装するなんて夢にも思っていなかった。 「ア――――――――オウ!」 ファイヤーモンスは炎の剣を振り回し、それまでと逆にゼロを追い詰め出す。さしものゼロも、 燃え盛る危険な凶器に迂闊に飛び込むことは出来ない。素手で触れれば大ダメージ確実だ。 「シャッ!」 距離を置いてエメリウムスラッシュで攻撃するも、炎の剣を盾にされて防がれた。エメリウムスラッシュを 見切って防御する剣術。メンヌヴィルの意識はもう見られないが、彼の戦闘術は受け継いでいるようである。 「ア――――――――オウ!」 ファイヤーモンスは一気に飛び込み、猛然とゼロに斬りかかる! ゼロ危うし! 「シェアッ!」 だがゼロは電光の速さでゼロスラッガーを両手に握り、炎の剣を受け止めた! そのまま、 相手の隙を窺い合う鍔迫り合い。 『であぁぁぁッ!』 「ア――――――――オウ!」 その末に、ゼロが炎の熱にも負けずに剣を弾き飛ばした! 空中に放り出された炎の剣を ゼロがすかさずキャッチ。切り札を奪い取られたファイヤーモンスは大慌てで後ずさった。 『武器に頼れば隙が生じるんだぜ! こいつはお返ししてやるッ!』 炎の剣を投げ返して、ファイヤーモンスにとどめを刺そうとするゼロ。 しかしその時、彼とファイヤーモンスの間の空が割れ、歪んだ空間が覗いた。そしてその中の、 とがった頭を持つ怪人の集団が声を発する。 『さすがだなぁ、ウルトラマンゼロ! ファイヤーモンスをこうも容易く追い詰めるとは』 『ヤプール人! とうとう姿を見せやがったな!』 空の異空間に向けて叫ぶゼロ。そう、遂に侵略者たち、ハルケギニアを覆う外宇宙の悪の親玉、 ヤプール人がゼロの前に姿を現したのだ。 「あれがヤプール人……!」 ヤプールの姿はルイズたちにも見えていた。割れた空の中にたたずむ異形に誰も彼もが 唖然とする中で、ルイズは険しい目つきでハルケギニア全ての敵をにらんでいる。 『貴様が相手では、我らが自慢の超獣でも役者不足のようだ。しかし心配はいらんぞ。 既に貴様に相応しい対戦相手を用意しているのだ!』 『何だと!?』 宣言の直後に、一瞬で空間内の光景が切り替わる。ヤプール人から、兜と鎧を 身に纏ったような巨大超人のものに。 『行けぇー! カブトザキラー!』 ヤプールの叫びとともに超人の両眼に光が宿り、空を更に砕いて穴を広げながら 三次元世界に飛び込んできた。空中で前転し、ファイヤーモンスの前方に降り立つ。 『こいつ……エースキラーに似てやがる!』 ゼロは目の前に現れた巨大超人の容姿について、そう発した。 エースキラー。それはかつてヤプールが、ことごとく自分たちの邪魔をした ウルトラ兄弟を始末するために造り上げた超人ロボットだ。その性能と戦闘能力は ウルトラ戦士に匹敵するほどで、超獣と並ぶヤプールの切り札となっている。 『そうとも。このカブトザキラーはエースキラーを強化改造した機体! ……フフフ、 この意味が貴様なら理解できるだろう』 『まさかッ!』 『戦えー! カブトザキラー!』 ヤプールの指示により、異次元超人カブトザキラーが手の代わりにハサミを持った 両腕を持ち上げ、十字に組んだ。 「えッ!? あの構えは……!」 まさか。ルイズが思う。そしてそのまさかは、的中した。 『スペシウム光線!』 カブトザキラーの右腕の先端より、黄色い光線、ゼロのワイドゼロショットによく似た光線が発射された! 『うおぉッ!』 咄嗟に炎の剣を盾にするゼロ。光線はエメリウムスラッシュを防いだ剣を、一撃で粉々に粉砕した。 『ちッ、やっぱり使えるのか……! ウルトラ兄弟の技をッ!』 ゼロの独白に、ヤプールが肯定した。 『如何にも! エースキラーはウルトラ四兄弟のエネルギーと武器を与えたロボット。後継機の カブトザキラーにもその能力は備わっている。しかも我々の改造により、現在のウルトラ兄弟全員の 技を使用できるようにしてあるのだぁ!』 「な、何てこと……!?」 愕然となるルイズ。ウルトラマンゼロはいくつもの驚異的な能力で、何人もの強敵を粉砕してきた。 だが今の敵は、そのゼロと同等の攻撃技を持つというのだ! そんな敵が今までにいただろうか!? 『カブトザキラーの力はウルトラ兄弟の力だ! 貴様はウルトラ兄弟全員と戦うのに等しい。 その結果がどうなるか、その身をもって教えてやる!』 『ふざけるな! 相手が誰だろうと、俺はテメェらみたいな悪には負けないぜ!』 『そんなことをいつまで言っていられるかな!? カブトザキラー、メタリウム光線だ!』 カブトザキラーが上半身をひねり、戻す勢いでL字に組んだ腕から虹色の光線を発射する! 『せぇやッ!』 ゼロは対抗してワイドゼロショットを発射。光線同士がぶつかり合い、爆発を起こして相殺された。 『ウルトラブレスレット!』 カブトザキラーの攻撃は止まらない。左腕に嵌めたブレスレットを宇宙ブーメランに変え、ゼロへ投擲する。 「ジュワッ!」 ゼロは頭部からゼロスラッガーを飛ばしてブレスレットを弾き返した。だがカブトザキラー自身が 突っ込んできて、両腕のハサミで切りかかる。 『うおッ!』 すんでのところでハサミをかわしたゼロは相手の手首を掴んで、ハサミの攻撃を止めた。 『エメリウム光線!』 『うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!』 メンチを切るように顔と顔を近づけたゼロとカブトザキラーのエメリウム光線が至近距離で激突。 そのまま両者学院の反対側へ走っていく。 『だぁッ!』 光線の勝負は互角。ゼロたちは光線のぶつかり合いの衝撃で距離を開けると、カブトザキラーが 地を蹴って高く跳び上がった。 『レオキック!』 『でやぁぁぁぁぁぁッ!』 飛び蹴りをウルトラゼロキックで迎撃。轟音とともに両者大地に落下。しかしゼロの方が 先に起き上がり、カブトザキラーの懐に飛び込んで掴みかかった。 『せぇぇいッ!』 相手の首筋にチョップを連打してダメージを与えていく。が、 『バックルビーム!』 カブトザキラーの丹田辺りから光弾の連射が発せられ、ゼロを大きく弾き飛ばす! 『ぐわあぁぁぁ!?』 大地に転がるゼロ。そこにカブトザキラーの追撃! 『M87光線!』 紅色の光線がゼロに襲い掛かり、彼を大爆発で呑み込む! 『うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』 「ゼロぉッ!!」 無敵のウルトラ戦士、ゼロがまさかの劣勢に、ルイズたちの表情が驚愕で染まる。 恐るべきカブトザキラーの脅威! ゼロはこの窮地を乗り越えることが出来るのか!? 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1980.html
前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ トリステイン城下町で男は目を冷ました。 男は何故ここで気を失っていたのかを思い出そうとする。 たしか路地裏で衛士どもに追い詰められていたはずだ。 その後、目くらましにするつもりで掴んだ植木鉢から青い光が溢れて……その後はよく覚えていない。 だいたい、ここは路地裏ですらない。地面が剥き出しとなった広場ではないか。 辺りを見回せばこの広場は意図的に作られたものではないことがわかる。 瓦礫の中、この場所だけが不自然に開けているのだ。 城下町にはこんな廃墟のような場所はなかったはず。 男は軽い頭痛に悩まされながらも考え続けるが、路地裏にいた自分が何故こんな所にいるのかどうしても思い出せなかった。 この場所には城下町を破壊する原因となった巨木が生えていたのだが、気を失っていた男はそんなことはもちろん知らない。 「おお、こんな所にいたのか。随分探したぞ」 悩み続ける男を呼ぶ声がした。 聞き覚えのある声の主を見て、男はほっとした。 彼を手引きしたトリステインの魔法衛士隊の人間ではないか。 その衛士は彼らの思想に共感し協力者となっているのだ。 「すまない。どうも記憶がおかしい。頭でも殴られたのかもしれん」 トリステインからの脱出も衛士が手引きをすることになっている。 男はふらつく足で衛士の元まで歩いた。 「そうか。だが、急いで安全な場所まで行かねばならんな。すでにこのあたりにも私以外の衛士が多く来ている。私とてその全てをごまかすことはできん」 衛士は少々あきれた目で男を見ていた。 それも仕方はないだろう。こんなところで考えにふけっていたのだ。逃亡中の間諜のすることではない。 「それで、俺はどこに行けばいいんだ?」 男はようやく元にたどり着いた。その頃になっても、まだ頭痛は取れてはいなかったが足下はしっかりしてきていた。 「なに、すぐに着くさ」 瞬間、男は腹に耐えられない熱さを感じた。 いや熱いのではない。痛みが酷くて熱さと体が勘違いしているのだ。 その証拠に自分の腹には魔法衛士隊の使う鋭い杖が突き刺さっているではないか。 「君の逃げ場所はもう死者の国しかないのだからね」 衛士は呪文を唱えながら、男から引き抜いた杖を振る。 それにより作られた雷撃が降り注ぎ、男を地面に叩きつけた。 なおも雷撃は続く。男は雷撃を受ける度に痙攣し、自らの体を地面にぶつけた。 それが数回。男は地面に倒れ伏したまま、手足を炭化させている。 男が自分の力で動くことは二度と無かった。 形態を通常のデバイスモードに戻したレイジングハートがいくつかの開口部から水蒸気を吹き出す。 それに合わせてルイズも肺の中の空気を全て吐き出した。 ルイズはかなり疲れていた。 いきなり生えてきたジュエルシードの大木に振り回されたというのもあるが、ディバインバスターの負担がかなりこたえていた。 練習の時から負担のかかる魔法だと解っていたが、実際に使うと思ったよりも疲れが出てきた。 前にユーノが言ったとおりもう少しプログラムを変えてみた方がいいかもしれない。 ──そろそろ帰ろうか。 そんなことを考えていると 「ねえ、ルイズ。そんなとこで何してるのよ」 後ろから声が聞こえた。 聞き覚えのある声だ。しかも、あまりここで聞きたくない声だ。 顔面を紅潮させたルイズはおそるおそる振り返る。 ばっさばっさ きゅるきゅる すぐさま目にも止まらぬ速さで顔を元に戻す。 「ユーノ、私、今幻覚を見たの。とっても疲れているのかも知れないわ」 「あ……それはね」 「なに言ってんのよ。幻覚じゃないわよ。ミス・ヴァリエール」 ルイズは歌劇俳優のように大げさな身振りで手を額に当て、絶望にうちひしがれる貴婦人のように空を仰ぎ見る。 「あぁ、どうしましょう。幻聴まで聞こえてきたわ。私、もうだめかも知れない」 そう、幻聴に違いない。そうに決まっている。 「いいから、こっち見なさいよ。幻聴じゃないわよ」 だが無慈悲にも現実は変わらない。後ろからはっきりと聞こえてくる声は幻聴でも幻覚でも無いような気がしてくる。 ルイズは意を決しておそるおそる振り向いた。 ばっさばっさ きゅるきゅる 風竜、それに乗った赤い髪の女と青い髪の女。 もはやどうやっても否定できない。 「あ、あははは。あははははははははは」 シルフィード、それに乗ったキュルケとタバサがいた。 キュルケだけでなくタバサも本から目を離してルイズを見ている。 ルイズは焦った。それはもう焦った。 どうしようどうしようどうしようどうしようどうしょう。 「さぁ、ゼロのルイズ。何から何まで全部喋ってもらうわよ」 キュルケは胸を突き出し、シルフィードの背中からルイズを見下ろしていた。 キュルケ達がルイズを見つけたのはシルフィードに乗って壊れていく町から飛び立った後だった。 しばらく町の外縁を周回していたのだが、そのうち遠くに空を飛んでいる白いメイジと茶色いマントのメイジを見つけた。 フライはそんなに長時間使える魔法ではない。使っている間どんどん精神力が消費される。 あんなところで浮かんでいてはそのうち精神力切れで地面まで真っ逆さまだ。 おそらく地上の根から逃げているうちにあんな所に飛び上がってしまったのだろう。 誰かは知らないが手助けくらいはしてやってもいいかもしれない。 しかし近づけば地上から蔓や蔦が伸びてきて捕まってしまう。 どうしようか手を出しあぐねているいるうちに、キュルケは驚くものを見た。 そのメイジは空を飛んだまま魔法を使ったのだ。 系統魔法ではフライを使ったまま他の魔法を使うことはできないのに。 さらにそのメイジの使ったもう一つの魔法もすごいもので、一撃で町中に生えていた巨木を光に変えてしまった。 スクエアのメイジだって、あんな魔法を使う者は少ないだろう。 こうなるとキュルケはその謎のメイジに俄然興味がわいてくる。 タバサに頼んで謎のメイジ近寄ってみるとまた驚いた。 白いメイジはルイズで、茶色いマントのメイジはルイズの男ではないかと疑っている少年だったのだ。 まさに一石二鳥。面白いことになりそうではないか。 そのルイズは今、目の前で酷く慌てている。 ルイズの気持ちもわからないではないのでキュルケは待ってやることにした。 待っている間、キュルケはルイズをじっくり観察する。 まず、あの白いドレス。悪いものではない。それどころかとてもいいものだ。 裕福な貴族の生まれのキュルケの目から見ても感嘆を覚えるような一品だ。色も光沢もすばらしい。生地の質も一級品だ。 あれと同じものを揃えようと思ったらお金だけでは無理だろう。 続いて、杖。 全部金属で作っているようだ。どんな金属かは解らないが、かなりの技術で作られているように見える。 これも同じものを手に入れるとなれば相当腕のいい土系統のメイジを見つけなければならないだろう。 ──いいものを揃えたわね そこで、キュルケは閃いた。 ゼロのルイズがフライを使いながらも魔法を使っている理由、スクエアに匹敵するような魔法を使っているのはドレスと杖が強力なマジックアイテムだからに違いない! となると疑問はルイズが何故そんなものをルイズが持って使っているかと言うことになる。 ──何か面白そうな話が聞けそう 学校の授業や、ボーイフレンド達との逢瀬よりも面白いかも知れない。 キュルケは赤い唇の端を少しだけ上げた。 顔面の全ての汗腺から汗を吹き出しつつ、ルイズは脳をフル回転させていた。 どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう なんとかごまかさないといけない。 「あ、あの・・・・・・」 「ちょっと今は静かにして」 ユーノが何か言い足そうにしていたが、今は待ってもらう。 今は集中しないといい考えが浮かびそうにない。他のことに気を回している余裕もない。 「うん、わかった」 こうなってはルイズは聞く耳を持たない。アイデアはあったがユーノは黙っておくことにした。 「Knock out by buster.(砲撃で昏倒させましょう)」 レイジングハートの提案は少し心惹かれるものがあったが止めておく。 いくらツェルプストーでも学友相手には過激すぎる。 第一、解決になりそうにない。ここはもっと穏便な別の方法が必要だ。 ルイズはさらに考える。 そうえば、キュルケはさっき自分を「ゼロのルイズ」と呼んでいた。 ルイズはそこに光明を見いだす。 キュルケは自分をゼロのルイズと呼んでいる。 ゼロとは魔法を使おうとすれば全部爆発。成功率ゼロという意味のゼロだ。 だけど、今は違う。 空を飛ぶ魔法は爆発無しで使える。 ジュエルシード封印の魔法だって爆発しない。 ディバイバスターだって爆発……爆発……少し置いておくことにする。うん。 そう、自分は以前とは違う。魔法が使えるゼロではないルイズだと思わせれば、ルイズとは別人と思ってくれるかも知れない。 冷静に考えればかなり無理がある論理展開なのだが、ルイズはとにかくそう考えた。 ルイズはゼロではない二つ名を考える。そして見つけた。 これなら完璧。絶対に大丈夫に違いない。 「わ、私はルイズじゃないわ」 「はぁ?じゃあ、誰だって言うのよ。その髪、その顔、その胸。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール以外の誰だって言うのよ」 ──聞いて驚きなさい。 ルイズは自信満々に自分の名前を宣言した。 「私は、ルイズじゃない。私は魔法少女リリカルイズよ!!!!!」 ばっさばっさ きゅるきゅる シルフィードの鳴き声と羽音がよく聞こえてきた。 そういえば、いい天気ね。町まで遠乗りしてよかったわ。 小鳥の鳴き声も綺麗ね。だってキュルケとタバサ、それにユーノだって聞き惚れてこんなに静かじゃない。 ルイズの思考は体を離れかけていた。 キュルケは必死に口を引き結んでいた。 少しでも力を弱めれば決壊してしまう。 だが、それも無駄な努力で限界はすぐに来た。 「ぷっ」 唇の間だから空気が漏れる。 後はもう止められない。 「あはははははははははははははは、あはははははははははははははは、あはははははははははははははは」 笑い声で正常な思考を取り戻したルイズは頭を抱えそうになった。 「な、何よそれ、魔法少女って何よ。魔法少女って」 ホントは魔導師と言おうとしたのだ。ユーノはメイジのことを魔導師という。これだけでも印象はかなり変わるはずだ。 それが、どこをどう間違ったのか魔法少女になってしまった。 「そ、それに、リリカルイズ……リリカルイズって……あははははははははははははははは」 リリカルイズじゃないもん。リリカルルイズだもん。 ここでも滑舌が徹底的に悪かった。 あー、もー、どうしよう。というか、どうしようもない。 「ねえねえ、タバサ。聞いた?魔法少女ですって、魔法少女。しかもリリカルイズ……あははははははははあはははは」 タバサは小さく肯いた。そして笑い転げるキュルケに言った。 「彼女は魔法少女リリカルイズ。ルイズじゃない」 ばっさばっさ きゅるきゅる ルイズは固まった キュルケも固まった ユーノもついでに固まった 三人の魂はどこかに飛んでいった。 最初に魂を取り戻したキュルケはこめかみを押さえながら、ゆっくりとタバサに言い聞かせた。 「ちょっと。タバサ。冗談よね。まあ、あなたにしては面白い冗談だと思うけど。別にあの子につきあってあげなくていいのよ。あの子はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよね?」 タバサは首を横に少し大きく振った。 「彼女は魔法少女リリカルイズ。ルイズじゃない」 キュルケは思いっきりたじろいだ。 その時のタバサの目は真剣だったからだ。 本気だった。本気と書いてマジだった。大マジだった。 その瞬間、ルイズも魂を取り戻した。 「じゃ、じゃあそういうことだから。リリカルイズは次の戦いに旅立つわ」 言うが早いがルイズは未だ茫然自失のユーノの手をひっつかみ、空の彼方にダッシュ。 「待ちなさい!タバサ、ルイズを……」 「ルイズじゃなくてリリカルイズ」 「ああ、もう。なら、そのリリカルイズを追うわよ!!」 「無理」 「なんで?」 「もう、追いつかない」 ルイズの姿はすでに砂粒よりも小さくなっていた。 「……どんな速さしているのよ」 砂粒もすぐに見えなくなる。 そうなってもキュルケはまだ地平線を見つめていた。 城門前に止められたヴァリエール家の紋章の着いた馬車の中では桃色がかったブロンドの夫人が高貴さを漂わせていた。 誰であろう、ラ・ヴァリエール公爵夫人である。 ラ・ヴァリエール公爵はすでに軍務を引退しており、特別なことがない限り城に出る必要はない。 しかし、それでも公爵家ともなれば国政と全く無関係ではいられない。 そこで公爵夫人は内政で多忙な夫に代わり、衛兵に顔を知られる程度の頻度で登城をしていた。 待つこと数分。馬車の外より夫人を呼ぶ声がした。 「奥方様」 「入りなさい」 夫人の呼びかけに応じ、馬車に入ってきた人物もまた桃色がかったブロンドの女性であったが、その雰囲気は夫人とはかなり違う。 髪を後ろでしばり、剣を帯く姿は武人のそのものであり、高貴さよりも勇猛さがにじみでている。 「町の様子はどうでしたか?」 「は。町を占領していた木々は出現と同様に突如消滅。住民の混乱もひとまず収まりつつあります」 「そうですか。原因はやはり?」 「はい。私が見つけた不審者のようです。あの者が何らかのマジックアイテムを使ったと言うことです」 桃色のブロンドの武人は城内で不審者を見つけ、一太刀を与えていた。 「その者は捕縛されたのですか?」 「いえ、グリフォン隊が追い詰めたものの激しく抵抗したためやむなくライトニングクラウドで……」 「そうですか」 夫人はため息をつく。 ライトニングクラウドを使ったということは、持ち物は全て焼き尽くされているはず。 不審者の背後を探ることはもはや不可能であろう。 「奥方様。マンティコア隊隊長がお礼を申し上げたいと来ていますが」 「礼はあなたが受け取っておきなさい。私は何もしていません」 「しかし……」 「すでに言いましたよ」 桃色のブロンドの武人はもう一度外に出る。 つい昔の癖が出てしまった。すでに引退した身なら、もう少し遠慮をした方がよかったかも知れない。 それでも、この事件は気になった。最低限のことでも調べずにはおられなかったのだ。 夫人は柔らかい椅子に深く体を預け、目を閉じた。 やがて、馬車が動き出す。 夫人はトリステインの未来と自分の娘達、そして馬車の外を歩く武人に思いを馳せた。 全力で空を飛ぶこと数十分。ルイズは学院の近くに着地した。 飛んだまま帰ってしまってはみんなにばれてしまうので、直接学院には飛んで戻れない。ここからは歩きだ。 「ふう……今日は疲れたわ。なんでだろ」 とは言ったものの理由はわかっている。 町中に出現したジュエルシードの大木と戦ったからだ。 でも、それよりその後でキュルケと遭遇した事の方で疲れているような気がするのは何でだろう。 続けてユーノが着地する。いつものように姿をフェレットに変えようとしたときだ。 「あっ!」 ユーノが少し大きな声を上げる。 重大なことに気づいたのだ。 「どうしよたのよ、ユーノ。大きな声で一体」 「ごめん。でも、ルイズ大変だよ」 「どうしたの?」 まだこれ以上何かあるのだろうか。ルイズはうんざりした気分になった。 「馬を町に忘れている」 「あっ!!!!」 ルイズが目と口を大きく開ける。 そういえば、あの騒ぎですっかり忘れていた。 「どうしよう……」 「取りに行かないといけないよ。預けっぱなしはいけないんでしょ?」 「うん……」 疲れがさらにどっと出てきた。意味のない往復は疲れるだけだ。 「それでね、ルイズ。一つ聞きたいことがあるんだ」 「なに?」 「どうして、町に行くときに飛んで行かなかったの?馬よりずっと早いのに」 「!!!!」 喉から飛び出しそうになった驚きの声を抑える。 そういう発想はルイズにはなかった。 系統魔法のフライは長距離移動には適さない。少し長く使っただけで精神力がきれてしまう。 そのため、スクエアメイジであっても少し遠いところ、例えば学院から町に行くときには馬を使う。 こういうこともあって、ルイズには町まで魔法で飛んでいくという発想はなかったのだ。 だが、言われてみればその通り。 今ルイズが使う飛行魔法は系統魔法よりずっと疲れずにすむし、遠くまで早く飛べる。馬を使う必要はなかったのだ。 でも「考えてなかったわ」とはユーノに言いたくない。 主人としての沽券に関わるではないか。 だからルイズはこう答えた。 「そ、それはね。ほら、飛んで行ったらそれを人に見られちゃうかも知れないじゃない。だから馬で行ったのよ」 「あ、そうか。そんなこと考えてなかったよ。すごいよルイズ」 ──よかった。ごまかせた。 ユーノの感嘆の声を聞きながらルイズは額ににじみ出た汗を袖で拭き取り、もう一度バリアジャケット姿になる。 早く馬を取りに戻らないと帰りには夜になってしまう。ルイズはユーノと空に飛び上がり、町へ向かって速度を上げた。 その頃。 ルイズの馬は「ルイズが忘れて帰ってしまった」と判断したキュルケが乗って帰っていた。 前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5136.html
戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ 3章 (41)摩耗したパワーストーン 外では雨が降っている。 大地を濡らす、嘆きの雨だ。 「お話は分かりました……」 白衣を纏った青年が、小さく唇を動かして、漏らすようにそう口にした。 ハルケギニアにおいて最大の教勢を有する始祖ブリミルへの信奉、それらを一手に纏め上げる『宗教庁』。 その中心は、光の国の別名を持つロマリア連合皇国、その随一の都市ロマリアにあった。 美しい、人々が一目見て感動し、崇敬することまでを計算に入れて作られたかのような、染み一つない見事な白亜。 五つの塔とその中心に座する巨大な本塔、そして周囲に点在する大小美しくも荘厳な建造物群。 『大聖堂』 ハルケギニア最大の、宗教権威の象徴。 その本塔、上層階で、司祭達の頂点に立つ青年は呟いた。 ロマリアの大聖堂、その謁見の間には今、四人の男女の姿があった。 一人は清浄なる白衣を纏った青年、教皇聖エイジス三十二世。 その対面はそれぞれ折り目正しい礼装を身に纏ったキュルケ、モット、コルベールである。 「ゲルマニアの窮状、トリステインの言い分、そしてアルビオンの非道。確かに全て聞き届けました」 教皇の言葉を聞いて、三人は傅いたままの姿勢で、目に期待を滲ませて彼を見た。 三人の正面に立つ人物は歳若い、まだ少年時代を過ぎて幾ばくといったところであろう。 そんな彼がハルケギニアにおいて最も尊い存在と謳われる教皇の立場にあるなど、説明されなければ何人たりとも分からないに違いない。 だが一方で、説明されれば彼の持つ輝くばかりの美貌や、背負われた降り注ぐばかりの威光は、彼が教皇聖エイジス三十二世であることの証左だと、納得させるに足るものであった。 「確かに宗教庁としても、一連のアルビオンの行動には含むところが無くはありません」 閃光。 雨音を切り裂いて雷鳴が轟く。 稲光が瞬いて照らし出された教皇の貌は、憔悴と疲弊に窶れていた。 「我々宗教庁は、あなた方の計画する反アルビオン連合への協力を惜しみません。ロマリアの議会にもそのように働きかけを行いましょう」 再び雷光。 一瞬不気味に白く浮かび上がった教皇のシルエットは、人として不完全な形をとっていた。 彼は教皇の位を示す聖杖を左手に持っている。 そして、本来それを握るはずの右手が、肘のあたりから先、無い。 教皇聖エイジス三十二世はその右手を聖衣の下に隠している。しかし、その長さが明らかに足りない。 教皇が隻腕の青年であるなどということは、訪ねた三人の内、誰もが知らぬことであった。 「ガリア女王の出した条件についても、特に問題ありません。そう女王陛下にお伝え下さい」 その一言により対アルビオン戦の要、ガリアの女王イザベラ一世との会談の為のお膳立てが、すべて揃えられた。 使命はここに果たされたのだ。 ガリア・ロマリア・トリステインの協力関係はきっと無事に築かれるに違いない。 全ては万事順調。 だというのに、その偉業を成し遂げたモット伯の顔色は優れなかった。 「聖下、発言をよろしいでしょうか」 モットの言葉に教皇は美しい微笑――壊れやすい陶器のような――を浮かべ、頷き応えた。 「聖下は……宗教庁は、この度のアルビオンの不穏を、どの程度か把握しておられたのではありませんか? 先ほどの口ぶりは、そう受け取れるものでしたが……」 確かに先ほど教皇は、宗教庁にはアルビオンへ思うところがあると発言している。 だが、モット伯がそうと思うに至った根拠は、それだけではない。 宗教庁は一般的に世俗には無関心とされているが、その実、他国を圧倒する情報戦のエキスパート達、優秀な密偵達を擁しているとも噂されている。 そしてその噂は単なる与太話の域に止まらず、信じるに足る根拠がいくつもある。実際に真実と信じているものも決して少なくはない。 モットもその一人である。 例えそのことを差し引いて考えたとしても、強大な権力と、ハルケギニア全土に広がる信徒・司祭達の連絡網を持つ宗教庁に、これまで一切の情報が入って来なかったというのは考えづらい。 ならばこそ、そのことをモットは問いたださねばならなかった、貴族として、ブリミルを信奉する者として。 この異常事態に宗教庁は、敬虔な司祭の長達は何を考えていたのかを。 死んでいった部下達や多くの者達の、代弁をしなければならなかった。 教皇は張り付いた笑顔に、無気力が滲んだ胡乱な目を一瞬モット伯に向けてから、子供に語り聞かせるようにゆっくりと喋り始めた。 「……そもそも、このような流れになること自体が、定められた世界の想定外だったのです。我々はその軌道を修正ないしは利用して、望みうる最良の結果を得るべく行動を起こしましたが、 ……結局、あなた方がこの場に現れた事実が、それすらも失敗に終わったことを示しています」 答えにならぬ答え。 宙を仰いで語る教皇の姿は、まるで老人のように疲れ果て、力なく。 そして、聞き届ける者も居ない独白は更に続く。 「我々は賭に負けたのです。真の主役はあなたたち、我らは表舞台からただ転がり落ちた落伍者にしか過ぎません。ならばこの度の機会は諦め、流れに任せ次の機会を待つのが、我らに残された最後の道なのでしょう」 それはあるいは始祖ブリミルへの告白だったのか。 独白は謳うように虚空へと流れ、何も残さず消えていった。 教皇の言葉は終わったが、疑問をぶつけたモット伯は戸惑いを隠せなかった。 今の言葉が問いかけに対する応えには思えない。しかし教皇が自分を煙に巻こうとしている発言とも思えなかったのだ。 そもそも、今の語り口からは、何かを成そうという覇気が感じられない。 彼自身の口から語られたとおり、それはまるで全てを諦めた落伍者のようであった。 一方、隣で傅くキュルケには、教皇がその身に纏っている気配の正体を敏感に察知していた。 今やアルビオンで探せばどこにでも転がっているそれは、『絶望』と『諦観』という名の感情である。 きっと教皇は、アルビオンに対して中立の立場を取ることで、何らかの利益を得ようとしたのだろう。しかし、実際には思い通りにことは運ばず、むしろ思いもしなかった破綻へと集束したのだ。 そうして絶望し、失意のうちに諦めと無気力に飲み込まれ、流されるに任される。 そうした姿を、キュルケはよく知っていた。 雨音だけを残して、沈黙の帳が落ちる。 モットは計りかねるようにして言葉を絶って、その姿から真意を掴み取ろうと教皇を凝視している。キュルケは興味がないとばかりに、すでに教皇に意識を向けていない。 「猊下、私もよろしいでしょうか」 よって、沈黙を破ったのは、この場に参じてから一度も口を開いていない人物であった。 「……あなたは?」 「トリステイン魔法学院の教師、ジャン・コルベールです。特使のお二人をこの地に運ぶ役目を仰せつかりました」 「……それで、その行者の方が、この私にいったい何の用向きでしょうか?」 コルベールは一つ頷くと懐へと手を差し入れ、そこから何かを握りしめ取り出した。 そして握った手を返して開くと、そこには小さな赤い箱が乗っていた。 コルベールはその箱を開けると両手で捧げ持ち、三歩前に出て教皇にその中身を見せた。 小さな箱……その台座に眠るように嵌め込まれていたのは、簡素な作りの、赤い宝石を嵌め込まれた古ぼけた指輪であった。 それを見た教皇の双眸が、驚きに見開かれる。 「! これは……」 「火のルビーでございます」 始祖の遺産、四の四。三王家一教皇に伝わる秘宝中の秘宝。 かつてトリステインへと逃げた、ある女が所持していたはずのそれ。失われたと思われて久しかったそれが、コルベールの手の中にはあった。 「聖下のお名前を知ったときから、いつかお渡ししなくてはならないと思っておりました……このような機会、このような場になったことをお許しください」 かつての持ち主ヴィットーリア、そして教皇たる青年ヴィットーリオ。 単に有りふれた名前、似ている名前というだけかもしれなかったが、それでもこれが一つの運命的な繋がりであるように、コルベールには思えたのだ。 「あなたはこれをどこで?」 「………」 「いえ、聞くべきことではありませんでした。今はただ、この指輪が戻ってきたことを喜びましょう」 コルベールは深く頭を垂れてじっとその言葉を聞いていた。 教皇聖エイジス三十二世の言葉は静かであるが、自然とひれ伏さなければならないと思わせる威厳に満ちていた。 そのような教皇の神々しさを目の当たりにしたコルベールは、しばし我を忘れて逡巡する。 「まだ何か?」 慈悲深い労りに満ちた、柔らかな声。 跪いたまま下がるでもなくその場に止まったコルベールに向かって教皇が問いかけた。 その言葉に、慈悲に、コルベールは縋り付かずにはいられなかった。 「聖下、過去に過ちを犯した罪人は、今をどのように生きればよいのでしょう」 二十年。 それは彼が二十年悩み続けてきた疑問だった。 コルベールの突然の問いかけにも動じず、教皇は慣れた様子で滑らかに答えを述べた。 「罪は償わねばなりません。過去の罪は現在の贖罪によって購われるでしょう」 「それでは、購いきれぬ過ちを犯した人間は、どうすればよいのでしょう」 「………」 強い、二度目の問いかけに、今度は教皇がしばし躊躇う。 彼は宗教庁の代表たる教皇として口にするべきことと、教皇聖エイジス三十二世として口にするべきことを天秤にかけ、 「罪が許されるまで、あるいは生涯を終えるまで、贖罪に身を費やすのです」 己の考えを口にした。 「つまり、それは……現在を、未来を、過去の精算に充てよということですか」 「そうです。その通りですジャン・コルベール。購えきれぬほどの罪ならば、その生涯を、現在を、未来を、過去の奴隷として贖罪の火にくべるのです」 穏やかな口調とは裏腹に、それは苛烈すぎるほどに、断罪の言葉であった。 コルベールが崩れ落ちる。 「ああ、……私は、やはり、許されぬ身なのか……っ」 咽び泣く、悔恨をその身に浴びて、嘆きに身を任せる。 その姿を見て、キュルケは溜まらずコルベールに声をかけようとした。 「ミ……っ」 だが、直前、思い止まる。 感情とは、その人間ただ一人のもの。 その決着は、己の手で掴み取らねばならぬ。 そこに余人の入り込む隙間などない。 いつか聞いたそんな言葉が、安易な慰めの言葉を遮ったのだった。 床に崩れ、嘆きに伏せるコルベールに、しかして教皇は、明るく暖かみのある声で語り降ろした。 「けれどもジャン・コルベールよ。私はあなたを祝福こそすれ断罪しようなどとは思いません。たとえあなたがこの指輪の持ち主から、どのような経緯でそれを受け取ったのだとしても」 頭上から降り注いだ声、その意味がわからずコルベールは涙の跡もそのままに、呆然とした顔立ちで目の前の教皇を仰いだ。 「この指輪の持ち主は、私の母でした」 「!」 事も無げにいうと、教皇は笑みすら浮かべて先を続けた。 「彼女は罪人でした。神に選ばれた息子の力に恐怖し、運命からも逃げ出した、本当に救いようのない咎人でした」 自分の母を、罪人と言い切る教皇の姿。 「よって、例えあの者が神の裁きを受けたとしても、それは運命。執行者はただそれを代行したに過ぎません。私にはあなたを祝福しこそすれ、罰することなど、できようはずがありません」 自分の母の死を、運命だとして肯定する姿。 「さあ胸を張りなさい。ミスタ・コルベール。あなたに神と始祖の祝福があらんことを」 コルベールが恐る恐ると覗いた教皇の目には、ここ数ヶ月で何度も目にした、あの狂気の色が映り込んでいたのだった。 深淵。 一寸先も見えない真の暗闇の中。そこにカツンと一つ、音が生まれた。 灯る光。 魔法のカンテラの明かりに照らし出されて、漆黒の眠りを妨げた闖入者の姿が浮かび上がる。 背格好は平均的な成人男性のそれよりやや高い。 身につけているのは純白の聖衣、頭に被った司祭帽には始祖ブリミルを崇める高司祭の地位を示した章紋。 何より特筆すべきは、闇の中にあって一筋の光明の如き、輝かんばかりのその美貌。 大聖堂地下、その秘奥。 代々の教皇と、その教皇の信任を勝ち得たほんの一握りの人間しか知り得ぬ、何重もの封印を施された秘密の小部屋、教皇はそこにいた。 「まさか……この局面で、私の手に戻ってくるとは思ってもみませんでした」 そう言って、教皇が左手でそこに潜むものに見せつけるように掲げたのは、赤い宝石がつけられた飾り気のない指輪である。 ウルザがパワーストーンと呼び、ルイズが二つ、ワルドが一つそれぞれ所持している始祖のルビー、その最後の一つが今、教皇の手の中にあった。 ずっとコルベールの元にあったそれは、ウルザの探索の手からも、ワルドの収集からも、他のパワーストーンとの共振からも逃れ、戻るべき主の手中に収まっていた。 では、如何なる手段を用いればそのようなことが可能であったのか? 種明かしは、火のルビーが宿したその弱々しい輝きにある。 それぞれ、独自の色に輝きを秘めたる四のルビー。だが、今教皇の手の中にあるそれは、くすんでおり輝きがほとんど感じられない。 火のルビー、本来ならば烈火の如き勢いで力を汲み上げることが可能なはずのそれは、力を著しく減退させており、故にこれまで誰にも感知されることがなかったのである。 教皇がカンテラを持った手で火のルビーを掲げた為、図らずともその光が闇に潜むものたちを照らし出した。 晒され現れたのは、無数の鉄の骸。 教皇が立つ足下の床には、無数の鉄くずが転がっていたのである。 それを見た教皇の耳に、言葉が蘇る。 『よかろう教皇猊下!』 『使い魔の命に免じて』 『貴様の右腕とこの場にあるガンダールヴの槍だけで』 『この場は満足するとしよう!』 『しかし、慈悲は一度だけだ』 『余計なことは考えるな』 『何もせず、じっとしていれば』 『おまえたちの望みは叶う、叶うのだ』 『くれぐれも、余計なことなど考えぬことだ』 頭蓋の中で、跳ね回るようにして言葉が残響した。 脳を直接揺さぶられるような苦痛に、教皇は頭を押さえてその場に蹲る。 その拍子に足下にあった一つの残骸が、霞む彼の目に留まった。 周囲に散乱しているのは、破片、破片、破片、破片…… それらは形も止めないほどに破壊され尽くした、カンダールヴの『槍』だった。 巨大な鉄の塊から異界的なフォルムを持つ何に使うか分からない器具、未だハルケギニアでは実用化の目処がつかない連続式自動拳銃、etcet...... それらは本来異世界からこの世界に呼び込まれた、ガンダールヴ最大の武器になるはずだった『槍』の、なれの果てである。 何重もの『固定化』や『硬質化』がかけられて保存されていたはずのそれらは、ただ一人の力によって、残らず本来の機能を破壊されてしまっていた。 その破壊の瞬間を、教皇はこの場で居合わせ目にしていた。 暴威を可能とした圧倒的な力。 まるで神が目の前に降臨したかのような、いっそ冒涜的ともいえるような存在感。 何もかも全てが、人間に許された領域を逸脱していたアレ。 そのような存在を目の当たりにした彼は、生まれたばかりの赤ん坊が泣くのと同じように、ただ、素直に本能に従った。 即ち、頭を垂れ、地に伏したのだ。 教皇は思う。 あのとき、膝を屈したその瞬間から、自分はこの世界において不要な存在になったのではないのかと。 今の自分は何もつまっていないただの存在の残りカスなのではないかと。 ああ、そう考えるだけで、息が、息が、息が…… 「!……かっ、はっ……」 瞬間、教皇は地の上にて溺れかけた。 だが、不意の偶然/あるいは必然によってその意識は別のものに向けられて、危うく窒息を免れる。 彼を救ったのは、右手が発した痺れるような鈍い痛みであった。 本来感じるはずのない、喪われた右腕の痛み――幻痛。 皮肉にもそれこそが闇に飲み込まれそうになった彼の意識を救ったものだった。 「そう……まだ終わっていない。思いがけず、機は巡り来た……」 青い顔をして、ぜえぜえと荒い息をつくと、彼は左手の中指に収まったそれへ目線を向けた。 「この指輪こそが、真なる救済の始まりとなりますよう……どうか始祖ブリミルよ、哀れなこの私を見守りください……」 そうして教皇は、床に倒れたままで聖句を、始祖ブリミルへの祈りを唱えたのだった。 パワーストーンを扱う者よ、心せよ。 その力は容易に心を掻き乱す。 用心せよ。その力が何をもたらすものなのか、もう一度、思考せよ。 ――スランの技術者 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7131.html
前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました 04.恋色マジック(*1) ルイズはまぶしくて目が覚めた。霞がかかったような頭に苛立ちを感じながら身を 起こす。下はいつものベッドではない。それどころか屋内でもない。 服も制服のままだ。どうやらここは昨日、召喚の儀式を行った草原らしい。 一体何があったんだっけ? という疑問は、辺りを見回したとたんに氷解した。 「う゛あ……」 思わず、貴族らしからぬ呻きを漏らす。死屍累々。その言葉がここまでぴったりと くる光景は初めてだ、とルイズは思った。気持ちの良さそうな寝息を立てて寝ている 妖怪達と、気持ちが悪そうに呻きながら横たわる生徒達。 その間を埋める、酒瓶の山。どこにこんな沢山持っていたのだろう、という程に 並んでいる。 自分も飲んだはず。だから、記憶もとぎれとぎれ。しかし、しっかり覚えていることも ある。それは、自分の隣で心地よさげな寝息を立てていた。 「キリサメ、マリサ」 確かそういう名前だった。しかし名前を呼んだ程度では反応はない。ずいぶんと酒を 飲んだのだろう。酒の入っていた瓶をしっかり抱きかかえたままだ。わたしも飲まされて、 疲れていたから簡単に酔いが回って、それで酔いつぶれた、 ということだろう。 だけど、彼女がいるということは、間違いのない事実。それはすなわち、召喚の魔法が 成功したということ。これでもうわたしは、魔法が使えない落ちこぼれなんかじゃない。 そう思うと、頬がゆるむ。今のわたしなら、レビテーションの魔法だって成功するはずだ。 ほら、目の前にちょうどいい大きさの小石があるじゃないか―― こうしてその日の朝は、爆発音と共に始まった。 「うわ、なんだなんだ」 魔理沙が飛び起きると、そこには杖を振り下ろしたまま、呆然とした顔で突っ立って いるルイズがいた。 「あー、とりあえず、おはよう」 声を掛けられたルイズは、慌てて杖を背後に隠した。そして取り繕うように胸を張る。 「ご、ご主人様より寝てるなんて、使い魔としてどうなのかしら」 「なんだ、使い魔の仕事には、モーニングサービスまで入ってるのか?」 まあそれくらいなら構わないけどな、といいつつ周囲を見回し、魔理沙もこの状況に 気がついた。 「やめろー」 「このぜろめ」 「あたまいたい……」 「はきそう……」 口元を押さえたり、頭を振ったりしながら体を起こす生徒達。どう見ても二日酔いの 集団である。彼らにとってあの爆発は手厳しい目覚めの合図となったことだろう。 ここまで酒を飲まされ、酒に飲まれた(*2)経験は、彼らにはなかったのだから。 一方、妖怪達もあわてて飛び起きはしたものの、ここが神社の境内でないことに 気がつき、安心した表情で再び座り込んだ。そして一抹の寂しさに吐息を漏らす。 宴会の後を片付けようとする巫女に手厳しく追い立てられる(*3)、ということはもう ないのだ、ということに気がついて。 そしてこの場で唯一の大人の人間、コルベールは、周囲を慌てて見回していた。 なぜなら今日はまだ、虚無の曜日ではない。ということは、普通に学校があり、授業が あるということ。 「皆さん、急いで戻りましょう!」 慌てるように言うと、自分自身にフライをかけ、そのまま生徒と妖怪を後目に、 飛んでいく。生徒達も自身にフライをかけ、後に続こうとした。いつものように、 ルイズに嘲笑を浴びせることも忘れない。 「ゼロは歩いて……うぷっ」 「あなたも……フライを……ああ、もうダメ……」 バランスを崩してフラフラしたり墜落しそうになっていなければ、それはきっと効果的な 罵声になっていたのだろう。フライを維持するには、ある程度の精神集中が必要なのだが、 二日酔いの中でもそれを維持できている人間はそう多くなさそうだ。 歩いた方が安全なのだが、それでもフライで移動しようというのは貴族としての意地と 見栄だろうか。それを見ていた妖怪達はヤレヤレと肩をすくめ、ふわりと宙に浮き上がった。 自分の主人となった人間に肩を貸そうというのだ。 地面に残り、一人その光景を見上げていたルイズは、思わず呟いていた。 「なんでみんな飛べるのよ」 しかもルイズの見ていた限りにおいて、呪文が唱えられた様子はない。まるで、鳥が 空を飛ぶのは当然だ、とでもいうかのごとく、自然に浮いていたのだ。 その人数は、五十に近い。このヨーカイとかいう連中がこれだけ召喚されていた、 という事実に改めて驚く。さらに驚くべき事は 「翼だってないのに」 ということだ。羽を持つ妖怪・妖精はごく一部。中には、羽と考えるならまったく実用的 ではない、七色の飾りのついた何か(*4)を背に生やした者もいる。そんな者たちも、 当たり前のように飛んでいる。 「普通、飛べるぜ」 地面に残り、一人何かを探している魔理沙は、そんなルイズの独り言に対して律儀に 合いの手を入れる。 「普通ってねぇ。じゃああなたはどうなのよ」 「私だけなら浮ける程度だな」(*5) 「はぁ……」 その返答に大きくため息をつく。やっぱり魔法使いとは言っても平民ならこんなものなのか。 「ふふん。この魔理沙様をなめてもらっちゃ困るぜ」 ルイズの元に戻ってきた魔理沙は、一本の箒を担いでいた。昨日ルイズが召喚した ときに、魔理沙が座っていたものだ。宴会の邪魔になるからと、遠くに放り出されて いたらしい。 「ご主人様に向かって何よそれ。だいたいそんな汚い箒がどうしたっていうのよ」 ふくれっ面のまま問いかけるルイズに、魔理沙はニヤニヤと笑いながら答える。 「空を飛ぶ……いや、駆けるのさ。あいつらよりも速いぜ」 「ふーん」 「あ、信じてないだろ」 「だってこんなので、どうやって飛ぶっていうのよ」 この世界には、箒に乗って空を飛ぶ魔女、という概念はない。そのことを魔理沙は 知らないが、何であれ飛ぶということを否定されるということは、幻想郷随一の飛行 速度を誇る魔理沙にとって、我慢ならないことだ。 「よーし!」 魔理沙の瞳が輝きを帯びる。きっと博麗の巫女なら『魔理沙がまた碌でもないことを 考えている』と分かっただろうが、昨日主人となったばかりのルイズにそれを求める のは、酷というものであろう。 「それではこの霧雨魔理沙の飛びっぷりを、ご主人様にごらんいただきましょう。 特等席で」 「え? え?」 戸惑うルイズの目の前で、まず魔理沙は箒を空中に固定した。奇術師のように 地面と箒の間に腕を通し、本当に浮いてることを示してみせる(*6)。ふぇ? という ルイズの間抜け声に含み笑いを漏らしつつ、魔理沙は自らの箒にまたがった。 そしてルイズを手招きする。 「……そこに座れっていうの?」 「ああ、特等席だからな」 魔理沙の前のスペースを指さしつつ、魔理沙はにこやかに笑った。不自然なまでに。 さすがにルイズの六感が警報を鳴らす。しかし、逃げ出すわけにはいかなかった。 ここで逃げたら、自分の使い魔を信じていないということを決定づけることになる。 使い魔を信じないということは、それを呼び出した自分の魔法を信じていないと いうことだ。自分の唯一となる魔法の成果を否定できるわけがない。 それに、昨日の召喚直後、魔理沙は自分のことを守ってくれたではないか。 「さあ、追いついてもらおうかしら」 魔理沙の手を借りて箒にまたがったルイズの命令に、魔理沙は不敵に笑って返す。 「追いつく? ぶち抜くぜ」 それは、嘘ではなかった(*7)。 「すごいわねぇ、風竜は」 「なんだ、早くも他人の使い魔に浮気か?」 「きゅいきゅい!」 「この子、雌」 タバサの使い魔となった風竜、シルフィードの上に三人の少女が乗っていた。主人で あるタバサとその友人、キュルケ、そしてキュルケの使い魔となった藤原妹紅である。 「ふふ、妬いてるの? ……いたた」 「確かに焼くのは得意だけどな」(*8) 人を連れて飛ぶのはどうもね、といいつつ肩をすくめる。それが二日酔いの人間で あれば尚更である、と。 さすがのキュルケも、深酒は堪えたようだ。片手で頭を押さえつつ片手で妹紅に 捕まるキュルケに、友人のタバサが救いの手を差し出した、というわけだ。 三人乗せても、風竜の飛行速度は他の誰よりも速い。頭痛に辟易としながら キュルケが後ろを振り返ると、妖怪に肩を借りたり、首筋を掴まれたり、抱きつかれ たりして飛んでいる生徒達が見える。中には手を繋いだだけなのに、頬を赤くする 小太りの男子生徒の姿もある(*9)。その後ろに、普通の生き物を召喚した生徒達が フラフラと続く。さらに目をこらすと、未だ地上に留まっている 人影が二つ。 「気になるのか?」 「まさか。ただちょっとどうしてるのかと思ったのよ」 素っ気ない仕草に、妹紅は内心ため息をついた。昨日の様子でも、自分の主人で あるキュルケとあのルイズという少女にはなにやら因縁じみた関係があるということは 想像がつく。ただそれは自分と蓬莱山輝夜のような殺伐とした関係ではなく、どうやら ライバルのようなものらしい。問題なのは本人達がそれに気がついていないことで。 まあ、しばらくは放っておこう、と妹紅は心の中で決めていた。変に弄って悪い方に 転がっても困る。 「あいつらなら、すぐに追いついてくるさ」 「…………?」 「きゅいきゅい!」 今まで手元の本を読んでいたタバサが不思議そうに妹紅を見上げ、シルフィードが 非難じみた鳴き声をあげる。それも当然だろう。ここからならば、もう目的地である 学院の方が近い。今の速度のままでも、あと三十秒足らずで着くはずだ。 「来るさ。なにしろアイツは――」 不意に妹紅が後ろを振り返った。他の妖怪達も振り返っている。タバサも気がついて いた。爆発的な魔力の放出に。 「後方注意!」 誰かが叫んだが、その時には既に遅かった。 地上から飛び立った何かが白い固まりを纏い、ものすごい勢いで接近してくる。 そして誰かが反応するよりも早く、生徒達の真上を駆け抜けていった。その軌跡を なぞるかのようにまき散らされる星屑に、みな昨日の光景を思い出す。ルイズの 使い魔である霧雨魔理沙が放った、星の花火を。 これでもし、うわー、とも、ひゃー、とも、ひー、ともいえない悲鳴が聞こえなければ、 ルイズのことを羨む者がいたかもしれない。そのなんとも形容しがたい悲鳴は ドップラー効果と共に遠ざかり、まるで流星のように学院目がけて落ちていく。 「今日は一段と速いな」 「きゅい!」 妹紅の評に応えるように一声叫ぶと、シルフィードは追い掛けるように速度を上げた。 今までとは比べものにならない速度ではあるが、時既に遅し。それでも風竜として意地 なのだろう。 一方、妖怪にも速さを信条とする者がいる。 「私たちもいきますよっ」 「えっ、ちょっとアヤ、待っ――」 左手で主人の手を握ったまま、右手で団扇を打ち振るう。巻き上がった突風に己と 主人の体を乗せ、これまた男の甲高い悲鳴と共に空を駆けていく(*10)。 後に残された生徒達は呆然とそれらを見送り、そして己の使い魔をそっと窺った。 その様子に気づいた妖怪が、内心苦笑しつつ応える。 「私たちはこのままの速度でいいですか?」 「そ、そうね、速ければいいというものでもないし……」 そのやり取りに、頷く者多数。あんな無様な悲鳴を上げるハメになど陥りたくない。 二日酔いで調子が悪いと来れば、尚更だ。 みな、自分たちの使い魔はあのような無茶で主人を振り回す生き物ではないと思い、 安心していた――まだ、この時は(*11)。 学院の厨房を取り仕切るコックのマルトーは、昨日の晩から機嫌が悪かった。 生徒の一人や二人が夕食を食べないことはよくあること。そのような分は、コックや メイドの賄いになるので、みな密かに望んでいたりする。 しかし昨日の晩は、二年生全員が食事をとりに来なかったのだ。あの誰も座って いないテーブルの寒々しいことと言ったら! そして今朝もまだ、二年生は誰も食堂に現れていない。 「くそっ! これだから貴族ってやつは!」 いつもの愚痴が漏れる。食材を作る平民のことも、それを運ぶ平民のことも、 調理する平民のことも眼中にないのが貴族だ、というわけだ。 そんな中突然、外からどよめきと悲鳴が聞こえてきた。 「なんだー?」 様子を見に行った部下の報告に、マルトーは眉をひそめた。曰く、召喚の儀式を 行っていた二年生がようやく帰ってきたという。まずは生徒四人に、使い魔が一匹と 三人。つまり、人間と思わしき使い魔が三人もいるということだ。 しかもその人型の使い魔は、まだまだ数がいるらしい。 「人型の使い魔ねぇ」 この学院で長いこと働いているが、そんな話は初耳だ。もっともマルトーにはそれ 自体は関係ない。重要なのはただ一つ。 「お前ら! どうやら今日からお客さんが増えるらしい。気合いを入れてけ!」 「はいっ!」 コック達の返事が唱和した。使い魔であろうと旨いと言わせてみせる。 それが料理人というものなのだ。 一方、学院長室。コルベールの報告を、次の授業の担当であるシュヴルーズは顔を 強張らせ、学院長であるオスマンは鼻毛を抜きながら聞いていた。 「――という訳で、直近のところでは問題はなさそうですが……」 「ま、見た目は可愛らしい連中じゃな」 「見てたんですか!」 コルベールの視線が一瞬、オスマンの背後にある鏡に向かう(*12)。 「そりゃあなあ。教師も含めて全員帰ってこなかったら、心配もするわい」 「申し訳ありません」 禿頭を下げるコルベールに対しオスマンは、ヒラヒラと手を振った。 「よいよい。あの場は一緒に酒を飲むのが一番じゃろ。 それが連中のコミュニケーション手段のようじゃし」 「それで、どう思われますか。連中はおとなしくしているでしょうか?」 「さあ、どうじゃろうなぁ」 「いんちょー!」 引き抜いた鼻毛をはじき飛ばしながらの台詞に、非難めいた声を上げるコルベール。 しかしオスマンはそれを無視し、真剣な声色で話し始めた。 「ただな。連中を見た目通りの存在だと思わん方がよいぞ」 「はい。なにやら色々出来るようです」 そういいつつ、懐から幻想郷縁起を取り出したが、書かれている内容を説明すべきか 迷う。一応本人達から直接話は聞いたのだが、運命を操るだの、豊穣を司るだの、 永遠と須臾を操るだのと、どう考えても酔っぱらいの戯言としか聞こえなかったのだ(*13)。 受け取ったオスマンはペラペラとめくりながら、言葉を続ける。 「鏡で覗いた時にな。ヨーカイ共が、こっちを向いたんじゃ」 「はぁ……」 言葉の意味が分からないコルベールに嘆息し、説明を続けた。 「魔法を介して気取られず観察できる筈のこちらの視線を感じて、反応したんじゃよ、 連中は」(*14) 「……単なる偶然では?」 「三十人からが一斉に振り向いてもか?」 「それは――っ!」 絶句するコルベール。 「その上、笑顔で会釈までしてきおった。まったく、どういう連中なのやら」 そこまでしてきたのはごく一部なのだが(*15)、それでも肝が冷えたことは確かだ。 ペラペラと幻想郷縁起をめくっていた手が、ふと止まる。印刷されている文字は 読めないが、イラストの下に見慣れた文字が書き込まれていた。 「キリサメマリサに……ミス・ヴァリエール?」 「ええ。彼女も召喚に成功しまして」 「そりゃよかった」 不幸中の幸いというやつか、というオスマンの言葉は、おそらくこの学院全ての 教師の内心を代弁したものといっても過言ではない。ヴァリエール家という高名な 貴族の息女がこの学院に預けられたのは、魔法に関する能力についてということも、 大きな一因なのだから。 「それで――」 今まで一言も発しなかったシュヴルーズが、引きつったような声を漏らした。 「次の授業はどうすればよいでしょうか」 「……普通でいいんじゃないかの」 「普通……ですか」 「連中は、ここが学舎であることは理解しとるんじゃろ」 コルベールはうなずき、言葉を継いだ。 「それに使い魔としての責は全うすると」 「主人達が静かにしていろという限りは、静かにしているじゃろ」 「はあ……」 まだ要領を得ない表情のシュヴルーズに、オスマンはしたり顔で頷いた。 コンタクト・サーバントによる契約が成されているのだ。実際にはそれほど 心配するほどのこともないのではないか、と(*16)。 「そういえば契約といえば――」 何かを思い出したようにコルベールは、オスマンの手元の本を指さした。 いまだに開かれている霧雨魔理沙のページには、彼女の額に浮かび上がった ルーンが書き写されている。 「このようなルーン、私は見たことがないのですが……」 「……私もないぞ」 シュヴルーズも黙って首を振る。三人とも、教師として長い。数多くの使い魔を 見ているが、このようなルーンを見たことは初めてである。もっとも、このように 奇妙な連中が召喚されたのも初めてのことではあるが。そこに何かしらの関係性が あるのではないだろうか(*17)。 「調べてみます」 「うむ、任せる……が、無理はせんことじゃ」 「は?」 「いや、まだ夜は寒いじゃろ? 酒を飲んで外で寝て、風邪でもひいてないかと思ってな」 ま、そんなヤワなわけでもないか。と笑うオスマンに対し、コルベールの顔が 徐々に引きつっていく。 「寒く……なかったのです、そういえば」 「ふむ。運がよいことじゃな」 「夜を通して暑くもなく寒くもなく、心地の良い風が吹いて、 まるで春の木陰にいるような……」(*18) 「……運がよい、だけでもなさそうじゃな、それは」 三人そろって嘆息した。運や偶然でなければ、この新しい使い魔達の仕業なの だろう。 オスマンが杖を振ると、鏡に何かが映し出された。食堂のようだ。貴族たちと共に テーブルに着く、使い魔の姿が見える。二日酔いのせいか顔色の悪い生徒達に対して、 使い魔となった妖怪たちは実に楽しげな笑みを浮かべていた。 いったいこの妖怪という連中は何者なのだろうか(*19)。 ルイズは気がつくと、アルヴィーズの食堂に座っていた。その直前の記憶は、 急速に近づいてくる地面だった気がする。あれは死んだと思った。走馬燈も走ったし。 でも今は、こうしてちゃんと食堂に座っている。その上左手にはフォーク。 先にはつけ合わせの野菜が刺さり、囓った後まである。全然覚えてないけれど。 そして彼女をこのような目に遭わせた使い魔はというと、彼女の横に座り、 他の使い魔と出来の悪い漫才に興じていた。 「――それで、その速さの秘密はなんです?」 「ん? いつも通りだぜ」 「ふふふ。私の目はごまかせませんよ」 「じゃああれだ。『郷に入っては郷に従え』」 「あなたは、そう簡単に従うような人間ですか?」 「あー、そりゃ気のせいだ。今の私は、ご主人様の命令を忠実に守る使い魔だぜ」 「どこが忠実な使い魔よーっ!」 思わず大声で叫んでしまった。 「うるさいー」 「あたまにひびくって言ったでしょー」 「このぜろのばかがー」 呪詛のような呻きが周囲から返ってきた。どうやら二日酔いは未だに治って ないらしい。食欲もない様子だが、その分、妖怪達が食べている。 「ご主人様、食べないんですか?」 「むしろよく食べれるな、君たちは」 「?」 呆れたような男子生徒の答えに、猫の尻尾を二本持つ使い魔は可愛らしく首を 傾げながら、主人が取り分けた鶏肉にかぶりついた。彼もまた昨日の深酒が 堪えている。彼ら以上にこのヨーカイといわれる連中は酒を飲んでいる筈なのだが、 なんでこんなに普通なんだろう。それに意外とみな、行儀がよい。きちんとナイフと フォークも使っている。昨日の夜の騒ぎ方からすれば信じられないくらいだ。 もっとも中には、鶏を骨ごとバリバリと噛み砕き、主人の顔を引きつらせている 者もいる。見た目が可愛らしいだけに、ギャップが酷い(*20)。 また、野菜だけを少しだけ食べているものもいる。 「食べないの?」 「うん、朝からそんなに食べたら、太っちゃうよ」(*21) 使い魔となった妖精の返答に、複雑な表情を見せる女生徒。年頃の女性として、 やはり体型は気になるところだ。 また別の生徒は、自らの使い魔がメイドに真っ赤な飲み物を持ってこさせる様子を、 気が抜けた風に見ていた。 彼女がその血のように紅いワインを飲む様子を見ながら呟く。 「血は飲まないのか……」 「下手な血よりは美味しいよ」 そういうと何が可笑しいのか、ケタケタと笑う。 「人間って鶏を食べるのに、鶏小屋に入って生きてる鶏に噛みつくの?」 「まさか」 「じゃあ、そういうことっ」 無邪気な様子で盃を一気に空ける。ニコリと笑った口に覗く犬歯は、今し方飲んだ ワインで紅く染まっていた。 また食事とは関係なく、むしろ周囲の人形に興味を示している者達もいる。 「ねぇ、一つ分解してみていい?」(*22) 「やめなさい、高いのよ、あれ」 「大丈夫、ちゃんと元には戻すから」 「……まずは、もっと安いので試して欲しいわ」 また別の主従でも。 「可愛い子達ね。一体貰えないかしら?」(*23) 「やめてくれ、あれは学院の備品で、高いんだぞ」 「そう、残念だわ」 「だったら僕が一つ作ってあげよう」 「あら、あなた、そんなことも出来るの?」 「ふふん。僕は青銅のギーシュ。この二つ名が意味するところは――」 しまった、と思うも後の祭り。二日酔いとも思えぬ勢いで始まった自慢話を 聞き流すアリス。一部そういうのもいるが、おおかたの所、この主人と使い魔達は 良好な関係を築きつつあるようだ。 そんな二年生と使い魔を、一年生と三年生が左右から、教師達が上からちらちらと 窺っている。興味半分、恐怖半分、羨望少々、といったところだろうか。 召喚の儀式でこのような人の姿をした者達が呼び出されたということは、今まで 例がない。しかもみな基本的に、少女、もしくは年頃の女性の姿をしているのだ。 貴族とはいっても年頃の青少年、興味がないと言えば嘘になる。 とはいっても、異形の存在であることには違いない。妙な動きを見せたら即座に 対応できるようにと、杖を握りしめている教師もいる。もっとも大半の者達は 様子見だ。主人となった二年生と普通にやり取りをしている、ということもあるし、 その能力が分からない、ということもある。 先ほど中庭に突如として落ちてきた生徒と使い魔には、一時騒然となったものだ。 本人曰く、落ちてきたわけではなく着陸した、ということだが、フライという魔法の 能力では、あの勢いを制御できるものではない。 だから二年生達を羨む者達もいる。メイジの力を見るなら使い魔を見ろ、と一般的に 言われているではないか。あの主人となった生徒も、実はすごい力を秘めているの ではないか、という憶測も飛んでいる。 もっとも、実際にその着陸を自らの体で体験した生徒にとっては色々と不満が あるらしい。だから、こんな文句も出る。 「なんでわたしたちと一緒に座ってるのよ」 「まさか床に座らせて、食べさせるわけにもいかないでしょ」 不満気なルイスの声に、キュルケが面白そうに応えた。彼女の使い魔である 妹紅は、我関せずというようにハシバミ草を囓っている。その様子をタバサがじっと 見ているのは、単に退屈だからというわけではないようだが(*24)、この場には 関係ないので割愛。 「なんだ、このすばらしい使い魔に不満でもあるのか?」 「あたりまえでしょ。わたしは、追いつけ、っていったのよ」 「追いつけ、といわれたから、ちゃんとぶち抜いたってのに」 「なんで追いつくだけにしないのよ」 「私はいつだって全力全開だぜ」 「全力全開っていうより、全力全壊ですね」 親指を立てての魔理沙の台詞に、横から射命丸文が口を挟んだ。壊すのが 魔理沙の専売特許でしょう、と何やら懐から紙切れを取り出す。そこに印刷された 写真の中には、窓を壊しつつ外に飛び出す魔理沙の姿があった。 「なるほど、さすがアヤ、上手いこというね」 さらに口を出すマリコルヌ。いつも悪口を言い合う相手の参入は、ルイズにとって 都合が良かった。怒りの捌け口という意味で。 「かぜっぴきは黙ってなさいっ」 「俺は風上のマリコルヌだっ」 そのまま始まった二人の言い合いを余所に、魔理沙と文は顔を見合わせた。 「この世界は日本語というわけじゃないですよね」 「ああ、昨日の禿頭の教師が書いてた文字は、私には読めなかったな」 「それでも会話は通じるし、同音異義語を使った冗句も伝わってます」 「面白いこともあるもんだぜ」 「これなら、いつもの調子で新聞を書いても、ちゃんと訳してもらえそうですね」 「なんだ、ここでも新聞を作るつもりなのか?」 呆れたような魔理沙に、文はあたりまえじゃないですか、と鼻を鳴らした。 「新聞の名前も考えてあります。 その名も文々。※新聞(ぶんぶんまるこめしんぶん)」 「まる……こめ……?」(*25) 「私のご主人様に敬意を表してですね――」 「マルコメじゃなくて、マリコルヌ、だよぅ」 情けなさそうなマリコルヌの声。さすがに聞き流すわけにはいかなかったらしい。 「それを言ったら、私だってブンじゃなくてアヤです。 いいですか、こういうのはちょっとした教養と余裕がなせる言葉遊びで――」 そのまま説明とも説教ともつかない話が始まってしまったが、マリコルヌはそれを どこか嬉しそうに聞いている。堪らないのは口げんかの最中に放り出された格好と なったルイズだ。右腕を振り上げたままの肩を、ポンポンと叩かれた。 振り返ると、神妙な顔をした自らの使い魔。 「早く慣れないと、辛いぞ」 「そうそう。こんな経験、なかなか出来るものじゃないわよ」 キュルケに同調までされてしまい、ルイズは深く溜め息をついた。まるで自分だけ おかしいみたいじゃない。ルイズは他の生徒達とは異なる頭痛に襲われていた。 覚悟を決めて教室に入ったシュヴルーズは、意外と平穏な状況に内心安堵の息を ついた。見るからにつまらなそうな様子で座っている者達(*26)もいるが、騒がれる よりはよっぽど良い。むしろ気になるのは、観察するかのような視線だ。 普通に、という学院長の言葉を思い出しつつ、彼女は毎年恒例となった挨拶を 口にした。 「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、 こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 今年は特に、可愛らしい使い魔が大勢いますね、という声に、当の妖怪達は微妙な 笑みを浮かべた。確かに外見は可愛らしいが、大半の妖怪はシュヴルーズの何倍も(*27) 生きているのだから。 何はともあれ、こうして授業が始まった。生徒達の体調を考慮してか今回は復習的な 内容らしく、多くの生徒は聞き流している状態だ。むしろ、一部の使い魔達の方が熱心に 授業を聞いている。 シュヴルーズが実際に真鍮を練金してみせると、小さなどよめきが起こった。 「無から小石を生成したり、そこから組成を組み直して真鍮を作ったり…… 面白いわね」 「なるほど、パチュリーの言う通りだ。あの魔力消費量は異常だぜ。少なすぎる」 「実は召喚魔法の応用で、物体の入れ替えを行っているとか? そちらの方がよっぽど納得できるわ」 「重要なのは、それが体系だった魔法として成り立っている事よ」 「研究するための所ではなく、習得するための所、か」 「貴族の立場が圧倒的優位にある理由がよく分かるわ」 「お静かに!」 シュヴルーズの注意に、三人の言葉が止まる。しかし、シュヴルーズの冷や汗は 止まらなかった。観察されていたのは彼女個人ではなく、この学院、そして魔法 そのものだったことがわかったのだから。 もっとも、だからといってどうこうできるわけでもない。彼女はいつも通り授業を進める ことにした。ここでは生徒に練金を試してもらう場面。ならば―― 「ミス・ヴァリエール」 「はい」 「練金を、あなたにやってもらいましょう」 あなたの無駄口の所為よ、などと使い魔にあたっているが、それは違う。彼女が 魔法を上手く使えないということは、シュヴルーズも話にだけは聞いている。先ほどの 三人の前で実践させれば、何か原因のようなものもわかるのではないか、と考えたのだ。 ただ、どのように失敗するか、ということまで詳しく知らなかったのが、迂闊ではあるが。 もっとも、当の使い魔の方は乗り気でないようだ。 「止めた方がいいんじゃないか?」 「なによ!」 「いや、だってなぁ……」 周りを見回すと、生徒達はみな、ルイズに思いとどまるような言葉をかけたり、何か から避難するかのように机の下に潜り込んでいる。つまり、ルイズの魔法は危険なのだ。 そういえば今朝、爆音で飛び起きた直後に魔理沙が見たものは、杖を持ったルイズの 姿だった。そして昨日の夜のコルベールの話。併せて考えれば、何が起きたのか、 そしてこれから何が起きるのかは容易に想像つく。 「朝だって失敗したんだろ?」 「だから何よ! 今度はちゃんと出来るかもしれないじゃない!」 「失敗した原因は分かってるのか?」 「う……」 「それじゃあ失敗するだろ、間違いなく」 「うるさいうるさいうるさい! 何度も練習したんだもん。今度ぐらい成功するわよ!」 前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました